賃金110(ANA大阪空港事件)

おはようございます。

今日は、退職功労金の権利性と内規の就業規則該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ANA大阪空港事件(大阪高裁平成27年9月29日・労判1126号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員及び元従業員の相続人が、Y社が労働組合に交付した書面に記載されていた退職功労金の支給基準は就業規則と一体のものとして労働契約の内容となっているとして、Y社に対し、労働契約に基づき、退職功労金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Y社が労働組合に交付した書面に記載されていた退職功労金の支給基準は労働契約の内容となっているとは認められないとして、Xらの請求をいずれも棄却したので、これを不服とするXらが本件各控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 旧退職金規程7条は、退職功労金について「在籍中に特に功労のあった者に対しては基本退職金の計算の範囲内での功労加算として加給する」と定めているが、在籍中に特に功労があった者に対して退職功労金を支給することを抽象的に定めているだけであり、同条によっては退職功労金の支給対象者及び支給額は確定しないから、旧退職金規程7条に基づいて、直ちに退職功労金を請求することはできず、使用者が「特に功労があった者」に当たるか否かを査定するとともに、具体的な算定方式や支給額を決定することによって初めて具体的な金額が確定するものと解される

2 日本語の通常の意味として、「内規」とは、「内部の規定、内々の決まり」を意味するから、それが就業規則と異なることは明らかである。加えて、昭和55年基準は、労使の合意として書面が作成されていない。これらからすると、Y社が昭和55年基準に従って退職功労金を労働契約の内容とする意思を有していなかったことが認められるから、Y社は昭和55年基準を就業規則として定めたものではなく、どのような者を「特に功労があった者」と認めるか、及び退職功労金の支給額をいくらにするかはあくまでもY社の運用に委ねられていることを前提としつつ、その運用基準として昭和55年基準を定めたものと認めるのが相当である
そうすると、昭和55年基準は旧退職金規程7条の内容を具体化するものではあるが、昭和55年基準自体は就業規則の一部ではないから、昭和55年基準はY社とY社の従業員との間の労働契約の内容としてY社を拘束するものではないというべきである。

原告としてはチャレンジングな訴訟だったと思いますが、裁判所の判断は特に驚くような内容とはなりませんでした。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。