解雇197(泉北環境整備施設組合事件)

おはようございます。

今日は、不正アクセス等を理由とする懲戒・分限処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

泉北環境整備施設組合事件(大阪地裁平成27年1月19日・労判1124号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務する公務員であるXが、Y社の情報ネットワークシステムを構築し、その管理運営の最高責任者であった立場を利用し、人事異動後もその閲覧権限を不適正に使用し、他の職員のフォルダへ侵入していたとの理由で、処分行政庁から、地方公務員法29条1項各号に基づき20日間の停職とする旨の懲戒処分及び同法28条1項3号に基づき課長から主幹へ降任する旨の分限処分を受けたことについて、いずれの処分も、Xは本件システム上の権限を不適正に使用したことはないことや、他の関与者に対する懲戒・分限処分との比較等からすれば重きに失する点で実体法上違法であり、本件各処分に係る手続に関与すべきでない者が関与している点で手続上も違法であると主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員において国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない職務上の義務違反その他の非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。そして、地公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択すべきかについて、具体的な基準を設けていないから、その決定は懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところであり、懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は、これが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法とならないものというべきである(最判昭和52年12月20日・神戸税関事件)。

2 地公法28条の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から、同条に定める処分権限を任命権者に認める一方、公務員の身分保障の見地から、その処分権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が、被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮すると、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるが、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分を行うことが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることは許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性のある判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法なものとの評価を免れないというべきである

3 そして、地公法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴してこれを判断するほかはなく、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けてこれを評価し、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素を含む諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において判断しなければならない。そして、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的に照らし、裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差し支えないものと解される(最判昭和48年9月14日・広島権教委事件)。

公務員の場合、通常の労働事件の場合とは異なる規範を用います。

行政事件でよく用いられる裁量権の逸脱・濫用の有無を判断する規範が用いられています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。