おはようございます。
さて、今日は、適格性不足等を理由とする試用期間中の解雇の成否に関する裁判例を見てみましょう。
日本基礎技術事件(大阪高裁平成24年2月10日・労判1045号5頁)
【事案の概要】
Y社は、建築コンサルタント、地盤調査、地盤改良・環境保全工事などを業とする会社である。
Xは、Y社に平成20年4月から新卒者(試用期間6か月)として勤務したが、試用期間中である同年7月29日、Y社で勤務する技術社員としての資質や能力等の適格性に問題があるとして、解雇の意思表示を受けた。
Xは、本件解雇は無効であると主張し、争った。
【裁判所の判断】
解雇は有効
【判例のポイント】
1 Xは、試用期間中の解雇であっても普通解雇の場合と同様に厳格な要件の下に判断されるべきであると主張するが、解約権の留保は、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における雇用の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性を有するものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)。
2 6か月の試用期間のうち、4か月弱が経過したところではあるものの、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく、睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいかない状況であるなど研修に臨む姿勢について疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえる。
3 Xとしても改善の必要性は十分認識でき、改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていたというべきであるし、Y社としても本採用すべく十分な指導、教育を行っていたといえるから、Y社が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないし、改めて告知・聴聞の機会を与える必要もない。
試用期間中の解雇が有効と判断されたケースです。
適格性不足による解雇なので、解雇をためらうところですが、判例のポイント2のような事情がある場合、裁判所は解雇を有効と判断してくれることもあるわけですね。
また、当該従業員に対する弁明の機会についての判断も参考になります。
なお、このケースでも、会社は、Xに対して繰り返し指導を行っています。
たいした指導もせずに解雇すると、無効になりますので、ご注意ください。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。