おはようございます。
さて、今日は、営業担当者に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。
C株式会社事件(大阪地裁平成23年12月16日・労判1043号15頁)
【事案の概要】
Y社は、スイスに本社を、世界各国に支社・営業所等を置き、陸・海・空にわたる国際的な運送業務を主な営業内容とするA社の100%出資にかかる日本法人である。
Xは、アメリカの大学を卒業し、日本において国際輸送業務を扱う企業数社に勤務した後、平成18年11月、Y社と雇用契約を締結した。
Xは、Y社入社後、大阪営業所の営業担当として勤務していた。
Y社は、親会社からの売上減少による人件費削減の指示を受け、退職勧奨を開始した。
Xは、Y社からの退職勧奨を拒絶したところ、Y社から整理解雇する旨の通知を受けた。
Xは、大阪地裁に対し、本件解雇は無効であるとして、地位保全、賃金仮払いの仮処分申立てを行ったところ、大阪地裁は、賃金仮払いの一部を容認する決定をした。
Y社は、その後、本件解雇を撤回すること、名古屋営業所の「輸出入カスタマーサービススタッフ」としての勤務を命ずる旨の辞令を発した。
Xは、本件配転命令は無効であると主張し、提訴した。
【裁判所の判断】
配転命令は無効
Y社に対し、慰謝料として50万円の支払を命じた
【判例のポイント】
1 ・・・これらの点からすると、Xが主張するような勤務地限定の合意があったとは認められない。
2 確かに、遠隔地異動に際しては、当該対象者の意向を尊重することは望ましく、これまでY社としてもかかる取扱いをしてきたことがうかがわれるが、同取扱いが上記就業規則や雇用契約上の条項等に優先した労使慣行になっていたとまで認めるに足りる的確な証拠は見出し難い。したがって、その限りにおいて、Xの上記主張は理由がないといわざるを得ない。
3 配転命令については、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存する場合には権利の濫用として無効であると解するのが相当である(東亜ペイント事件最高裁判決)。
4 (1)名古屋営業所においては、Xが配属されるまで、Xが担当する輸出案件に特化したカスタマーサービススタッフはおらず、名古屋営業所における輸出案件は、主としてO社員が担当していたこと、(2)名古屋営業所のL社員は、K業務部長に対し、Xにいかなる業務を担当させたらいいのかという趣旨のメールを送信したのに対して、K業務部長は、Xが担当する輸出案件は多くない旨のメールを返信していること、(3)本件配転命令後、Xが名古屋営業所において実際に従事した業務内容は、特に輸出案件に特化したものではなく、その点について、特に直属の上司であるK業務部長から個別具体的な指示等があったとは認められないこと、Y社は、平成22年7月輸出業務に必要な免許を取得し、同年8月16日から輸出業務の自営が開始されたところ、本件配転命令の時点で、特に、輸出業務に特化したカスタマーサービススタッフが必要であったとまでは認められないこと、(4)船の請求書や実際の輸出のドキュメントを作成したり、顧客と直接コンタクトをとって、集荷の手配等のいわゆるオペレーション業務については、大阪営業所で行っており、名古屋営業所では行っていなかったこと、一方、(5)大阪営業所においては、Xが配転した後、同じ営業職の後任者は配属されておらず、同事務所全体としては、輸出案件に特化した(あるいは、輸出もできる)カスタマーサービススタッフを大阪営業所に配置することも十分に可能かつ容易であったと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実を総合的に勘案すると、本件解雇を撤回し、Xが職場復帰するという平成22年3月時点において、あえてXを輸出案件に特化した、あるいは輸出案件もできるカスタマーサービススタッフとして名古屋営業所に配転する必要性及び合理性があったとまでは認め難い。
5 (1)本件配転命令は、配転命令権を濫用する無効なものであって、XにはY社の名古屋営業所において就労する義務があるとはいえないこと、(2)本件配転命令が本件解雇に関する仮処分決定後、本件解雇を撤回した後、Xを元の職場である大阪営業所に復帰させることなくなされていること、(3)大阪営業所には、Xを受け入れることが不可能な状況にあったとはいえないことからすると、本件配転命令は、業務上の必要性及び合理性がないにもかかわらず、本件仮処分決定を契機としたXの復帰に当たって、不当な動機目的をもってなされたものと推認することができ、かかる経緯等にかんがみると、損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性を有しているといえ、不法行為に該当すると認めるのが相当である。
まず、勤務地限定の合意については、裁判所はそう簡単には認めてくれません。
今回のケースは、解雇に関する仮処分決定が事前に出されている点が大きいですね。
これが、不当な動機目的を推認させる事情となっています。
こういうわかりやすい事情があると従業員側としては、戦いやすいですね。
会社側とすれば、時期をずらすなどの工夫が必要です。
実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。