賃金104(農事組合法人乙山農場ほか事件)

おはようございます。

今日は、元従業員5名による未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

農事組合法人乙山農場ほか事件(千葉地裁八日市場支部平成27年2月27日・労判1118号43頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y1社及びY2社に対し、賃金、時間外手当の支払いを求めるとともに、Y社の理事兼Y社の代表取締役であるAに対し、各賃金不払につき第三者であるXらに対する責任を負う旨主張して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、前記各請求と連帯して、前記各賃金と同額の損害金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xらそれぞれに対し、連帯して、約175万円、約448万円、約22万円、約577万円、324万円を支払え。

【判例のポイント】

1 X1、X2およびX3がY1社と雇用契約を締結して労務を提供していたことは争いがないのであるが、結局、各認定した労務の実態に照らすと、前記3名が提供した労務の大部分はいずれもY2社の業務に関するものであって、また、Y2社及びY1社の経理が厳密に区別されてこなかった結果、各賃金支払もY1社・Y2社いずれからも行われてきたものである
そうすると、X1、X2及びX3との間の各雇用契約は、黙示にはY1社のみならずY2社との間でも各締結されていたと捉えることができる
そうすると、X1、X2及びX3の賃金請求との関係では、Xらの主張する事実との関係に照らしても、Xらが法律構成として主張する法人格否認の法理を適用するまでもなく、Y2社においても前記3名が雇用されていたものと認定すれば足り、またY2社とY1社との債務の関係は、商法511条1項により、連帯債務と解することができる。
したがって、Y2社は、Y1社の負う本件各債務についても連帯してその支払義務を負うと解され、X1、X2及びX3は、Y2社に対しても、各賃金等を請求することができる。

2 Aにつき、Xらの各賃金未払いを明確に認識していたものと認められず、一方で、未払給与の支払いを求められたAがY2社の小切手を交付して対応するなどして未払い解消に努めようとしていた事情も認められるのであって、Y1社又はY2社の給与支払業務につき、法令違反による任務懈怠が認められるとしても、Aに悪意又は重大な過失があったとまでは評価できないし、また、Xらの各賃金請求につき、遅延損害金を含めてY2社に各請求することが可能であると解されるところ、Xらに各損害が現実に発生したと評価することも困難である
したがって、XらがAに対して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、賃金額と同額の損害を請求することはできない。

それにしてもすごい金額になっていますね。 ちゃんと支払ってもらえるのでしょうか・・・。

「法人格否認の法理を適用するまでもなく」との判断は、参考になりますね。

なお、商法511条1項は以下のとおりです。

数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。