解雇185(学校法人早稲田大学(解雇)事件)

おはようございます。

今日は、教授に対する適格性欠如を理由とする解雇の有効性と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人早稲田大学(解雇)事件(東京地裁平成26年12月24日・労判1116号86頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の設置するA大学の教授であったところ、茨城県つくば市が行った風力発電機設置事業に関与したが、当該事業において莫大な損害が発生し、Y社がその一部を負担することとなった。

被告は、XがA大学教授としての適格性を欠くとして、Xを解雇した。

本件本訴は、Xが、本件解雇が無効であると主張して、地位確認と解雇後の賃金の支払を求めるとともに、本件解雇や本件解雇まで命じられた長期間の自宅待機が違法であると主張して、慰謝料の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xには、Y社がつくば市に対して支払った賠償額の8割について責任があると主張して、Xに対し、損害賠償の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原告の本訴請求は棄却する。

XはY社に対し、2239万5712円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、上記の義務を履行しなかったのであり、本件風力発電機が稼働しなかったことについての責任が認められる。
Xは、Y社が本件契約において、免責条項を入れるなり、保険を掛けるなりしていれば、Y社に損害が生じなかったと主張する。契約条項については、後述のとおり、Y社の管理の甘さにも問題がある。しかしながら、Xは、学外提携リスクマネジメント委員会の委員長として、本件契約について契約研究時審査に掛けるかどうかを検討していたところ、同委員会の委員には弁護士も含まれていたにもかかわらず、弁護士以外の委員のみの意見を聞いて、問題がないと判断し、委員長としては委員会の開催申請を行わなかったのであり、本件契約において被告が負担すべき損害の範囲が限定されるように対処されなかったことについて、原告にも責任の一端はある。
また、本件契約のような契約によって生じた損害をカバーする保険があるかどうか明らかではないし、例えあったとしても、巨額の税金が無駄となったことについて、Y社が社会的に非難されていたことに変わりはないのであって、Y社に損害が生じなければよいという問題ではない
本件風力発電機が稼働しないことで、Y社が多額の賠償責任を負ったということは広く報道され、A大学の研究機関としての信用が大きく毀損されたことは明らかである。
Xは、自己の義務を履行しなかったことによって、Y社に多額の損害を与え、Y社の信用を毀損したのであり、しかも、そのことについて、何ら反省の態度を見せていないことからすれば、XにA大学の教員としての適格性が欠けているとの教授会、理事会の判断は相当なものと認められる。

2 Xは、本件契約におけるY社の履行補助者であって、Y社に損害賠償金の負担が生じないように本件契約における義務を履行すべき義務を負っていたのであるが、上記のとおり、本件契約において要求されていた義務を履行せず、本件損害賠償金の支払を生じさせたのであるから、Y社との関係でも、履行補助者としての義務に違反したと認められ、Xは、本件損害賠償金の支払によってY社に生じた損害につき、責任が認められる

3 そこで、本件損害賠償金の支払によってY社に生じた損害についてのXとY社との間の負担割合について検討する。
本件契約の締結を承認した理事会においては、本件契約によって生じるリスクの有無についても、申請者から独立した者によるリスクのチェックや法的観点からのリスクのチェックがされたのかについても審議されていない。この当時、Y社内においては、そのようなチェックをする体制は構築されておらず、実際に行われたのは、申請当事者であるXがリスクマネジメント委員会の委員長として、研究契約時審査に掛ける必要がないと判断したことのみであった
このように、外部の者から業務を請け負う際に生じるリスクに対する管理体制が構築されていなかったことが、本件契約の業務委託料が1750万円であるにもかかわらず、Y社がつくば市に対して、1億円を超える損害賠償金の支払を余儀なくされた大きな原因であるというべきである。
そうすると、本件契約から生じるリスクに対する管理体制を構築していなかったY社に損害の多くの部分を負担させるのが相当である。
したがって、本件損害賠償金のうちXに負担させるべき額は、本件損害金の元本の4分の1である2239万5712円をもって相当額と認める。

会社から従業員に対して損害賠償請求をする場合、この裁判例のような議論をすることになります。

訴えられた従業員としては、支払うべき損害額を抑えるために、会社に損害拡大を防止する体制の不十分さ等を主張することになります。

参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。