セクハラ・パワハラ13(アンシス・ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したとして損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

アンシス・ジャパン事件(東京地裁平成27年3月27日・労経速2251号12頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社がXとの労働契約上の義務として負う安全配慮義務又は労働者が労働しやすい職場環境を整える義務を怠った旨を主張し、Y社に対し、民法715条の不法行為責任又は同法415条の債務不履行責任に基づく損害賠償(慰謝料)等として合計700万円を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、50万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 CがXをパワハラで訴えるという出来事が生じたのは、主として、インストールサポートをXとCとの二人体制とした上でXをチームリーダーとする体制が維持されてきたことに起因するものと解されるのであり、人事部においてパワハラの事実はないと判断されたことも踏まえれば、この出来事の発生に関してXに特段の帰責性はないというべきである。
本件のように二人体制で業務を担当する他方の同僚からパワハラで訴えられるという出来事(トラブル)は、同僚との間での対立が非常に大きく、深刻であると解される点で、客観的にみてもXに相当強い心理的負荷を与えたと認めるのが相当であり、X自身、Xをパワハラで訴えたCと一緒に仕事をするのは精神的にも非常に苦痛であり不可能である旨を繰り返しD部長らに訴えているのであるから、Y社は、上記のように強い心理的負荷を与えるようなトラブルの再発を防止し、Xの心理的負荷等が過度に蓄積することがないように適切な対応をとるべきであり、具体的には、X又はCを他部署へ配転してXとCとを業務上完全に分離するか、又は少なくともXとCとの業務上の関わりを極力少なくし、Xに業務の負担が偏ることのない体制をとる必要があったというべきである。

2 ・・・そうすると、D部長が、Xに対し、その心理的負荷等が過度に蓄積することがないように注意して指揮監督権限を行使していたと認めることはできないから、使用者であるY社としても、Y社がXに対して負う注意義務(業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務。)を果たしていないと認めざるを得ないというべきである。

3 Y社は、Xに対し、インストールサポートに伴い疲労や心理的負荷等を過度に蓄積してXの心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っているところ、同義務に違反したものと認められるが、このY社の注意義務違反によりXが心身の健康を損なったものとまでは認められない。しかし、Xは、Cからのパワハラの訴えによって相当強い心理的負荷を受けたと認められるものであり、その後も、Cとの協働は精神的にも無理である旨をD部長らに繰り返し訴えていたものの、この訴えに沿った対応がとられないまま、最終的には、D部長から「この会社を辞めるか、この状況の中でやるべき仕事をやるか。」と言われ、Y社を退職するに至ったとの経緯からすれば、Xが心身の健康を損なったと認められるまでに至っていないからといって直ちにXの損害を否定することはできず、上記の事実経過に照らせば、Y社の注意義務違反によりXが精神的苦痛を被ったことは明らかというべきであるから、かかる精神的損害については50万円をもって慰謝するのが相当である。

上記判例のポイント1は、是非参考にしてください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。