労働災害83(フォーカスシステムズ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、遺族補償年金についての損益相殺的調整に関する最高裁判例を見てみましょう。

フォーカスシステムズ事件(最高裁平成27年3月4日・労判1114号6頁)

【事案の概要】

本件は、過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したXの相続人が、Xが死亡したのは、長時間の時間外労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し、正常な判断能力を欠く状態で飲酒したためであると主張して、Xを雇用していたY社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求める事案である。

原審は、Y社の安全配慮義務違反を認め、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償義務を認定するとともに、Xの過失割合は3割と認定した。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の填補を目的とする保険給付であり、その目的に従い、法令に基づき、定められた額が定められた時期に定期的に支給されるものとされているが、これは、遺族の被扶養利益の喪失が現実化する都度ないし現実化するのに対応して、その支給を行うことを制度上予定しているものと解されるのであって、制度の趣旨に沿った支給がされる限り、その支給分については当該遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみることが相当である。そして、上記の支給に係る損害が被害者の逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有することは、上記のとおりである。
上述した損害の算定の在り方と上記のような遺族補償年金の給付の意義等に照らせば、不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定することにより、上記相続人が喪失した被扶養利益が填補されたこととなる場合には、その限度で、被害者の逸失利益等の消極損害は現実にはないものと評価できる

2 以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(最高裁平成22年9月13日判決参照)。
以上説示するところに従い、所論引用の当裁判所平成16年12月20日判決は、上記判断と抵触する限度において、これは変更すべきである。

有名な最高裁判例なのでご存じの方も多いと思いますが紹介しておきます。