解雇183(ヒューマンコンサルティングほか事件)

おはようございます。

今日は、業務命令違反等を理由とする解雇の有効性と法人格否認の法理に関する裁判例を見てみましょう。

ヒューマンコンサルティングほか事件(横浜地裁平成26年8月27日・労判1114号143頁)

【事案の概要】

本件は、A社に勤務していたXが、A社から解雇されたことに対し、解雇が無効であり、A社とY社とは一体であるから(法人格否認の法理、あるいは会社法22条1項の類推適用)、Y社に対し、Xが新たに就職することができた平成24年9月1日より前の平成24年8月31日までの賃金及び遅延損害金の請求をし、民事訴訟方41条1項の同時審判の申出を行い予備的に、A社に対して、Y社に対する主位的請求と同様の請求を行い、さらに予備的請求として、A社とY社の間で行われた事業譲渡契約を詐害行為取消権に基づいて取消請求を行うとともに、本件訴訟は、訴訟に先立ち当庁で地位保全等仮処分申立事件が係属していたが、その仮処分事件の審尋期日におけるA社の代表者清算人であったBの言動がXに対する不法行為に該当するとして、Bに対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)及び遅延損害金の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

A社に対する訴えを却下する。

Y社はXに対し580万円+遅延損害金を支払え。

その余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 A社、Y社のそれぞれの法人格としての使い分けは全くなされておらず、すべて一体の組織として、対客との関係でも、対従業員との関係でも活動していたと評価せざるを得ない

2 平成22年春から夏にかけて、A社としては、仮に、Xに対する解雇が正当であり、未払賃金がない、未払時間外手当がないと考えていたとしても、平成22年10月の時点での組合からの要求額が335万円以上であること、(Bは、残業代と保険料の請求で合計100万円位と思っていたと供述しているが、上記書面に照らし信用できない。)組合を通じての交渉、神奈川県労働委員会でのあっせん等と紛争が拡大していく中で、さらなる金員の要求や場合によっては何らかの金銭債務を負担させられるということをY社側が危惧したことは当然予想されることであって、そのような債務の支払を免れるための手段をとることは十分に考えられる

3 Bがこれらの会社を思うままに動かしていたと評価することができ、これらの会社の支配者であるBが、会社を自己の意のままに道具として用いることができる支配的地位にいることを利用したこと、Y社らの主張する会社設立の目的、経緯は信用できず、かえって債務負担の認識からすると、BがY社を設立させた目的は法人格を利用して債務負担等を免れるためであったといえるから、これは法人格の濫用ということができる。

4 ・・・以上からすると、Y社が設立されたのは、A社がXが加入した組合から解雇無効の主張を前提に、バックペイや残業代等の支払を求められ、これらの債務の支払を免れるために法人格を濫用したと評価できるのであるから、法人格否認の法理を適用し、解雇無効によりA社に生じる債務については、Y社が負担すべきである

元従業員からの賃金請求に対し、事業譲渡等の方法により会社自体を消滅させようと考える経営者は少なからずいます。

今回は、珍しく法人格の濫用であると認定してもらえましたが、多くの事案では、裁判所はなかなか法人格否認の法理を採用してくれません。

どのような状況の下に法人格の濫用を認定しているのか正確に事案の把握をすることが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。