派遣労働7(日本トムソン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、派遣社員と派遣先との労働契約の成否と更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本トムソン事件(大阪高裁平成23年9月30日・労判1039号5頁)

【事案の概要】

Xらは、平成16年4月から20年4月までの間、A社との間で労働契約を締結し、Y社の姫路工場内で、自動車のベアリングの製造業務に従事していた。

Y社は、平成15年12月当時、姫路工場において製造業務の請負化を目指したが、当初、A社にはベアリングの製造に関する技能、経験がなく、いきなり請負化しても単独での運用は難しいため、まずはY社がAから出向の形態でA社の社員を受け入れ、出向者が技能を習得することができたと判断された時点に置いて、請負形態での運用に移行することとした。

このようにして、A社とY社との間では、同年12月には出向協定が締結されたものが、17年10月からは業務委託(請負)契約に変更され、さらに、製造業での労働者派遣が解禁された後の18年8月からは、労働者派遣契約が締結された。

しかし、平成21年2月、リーマンショックのなかで、A社とY社の本件労働者派遣契約につき、同年3月をもって中途解約する旨の通知をA社が受けたことを契機に、Xらは、同日をもって中途解雇(労働契約の本来の終期は、平成21年8月であった)する旨の解雇予告通知をA社から受けた。

【裁判所の判断】

派遣労働者と派遣先との間での黙示の労働契約の成立は否定

派遣先による雇止めは適法

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 雇用契約は、契約当事者間において、一方が他方に使用されて労働に従事することと、その労働への従事に対して一方が他方に賃金を支払うことを内容とする合意である。本件において、XらとY社との間に黙示の雇用契約の成立を認めるに足りる証拠はない

2 労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の就業に関する条件の整備を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的として制定された行政上の取締法規であって、同法4条の規定する労働者派遣を行うことのできる事業の範囲や同法40条の2が規定する派遣可能期間等についてどのようにするかは、我が国で行われてきた長期雇用システムと、企業の労働力調整の必要に基づく労働者派遣とをいかに調整するかという、その時々の経済情勢や社会労働政策にかかわる行政上の問題であると理解される上、労働者派遣法によって保護される利益は、基本的に派遣労働に関する雇用秩序であり、それを通じて、個々の派遣労働者の労働条件が保護されることがあるとしても、労働者派遣法は、派遣労働者と派遣先企業との労働契約の成立を保障したり、派遣関係下で定められている労働条件を超えて個々の派遣労働者の利益を保護しようとしたりするものではないと解される上、少なくとも労働者派遣法に反して労働者派遣を受け入れること自体については、労働者派遣法は罰則を定めておらず、また、社会的にみると、労働者派遣は、企業にとって比較的有利な条件で労働力を得ることを可能にする反面、労働者に対して就労の場を提供する機能を果たしていることも軽視できないことからすると、非許容業務でないのに派遣労働者を受け入れ、許容期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反の事実があったからといって、直ちに不法行為上の違法があるとはいい難く、他にこの違法性を肯定するに足りる事情は認められない
以上によれば、Xらの不法行為による損害賠償請求はいずれも理由がない。

本件は、出向、業務請負契約、労働者派遣という法形式の変遷があり、これが事案を複雑にしています。

派遣先との黙示の労働契約の成立については、現在のところ、一貫して裁判所は否定しています。

慰謝料請求については、裁判例により結論が別れているところですが、本件では、派遣法違反だからといって当然に不法行為上の違法とはいえないと判断しています。

なお、一審判決は、慰謝料としてXら各自に対し50万円の支払を命じました。

最高裁の判断を待ちましょう。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。