労働災害82(メルシャン事件)

おはようございます。

今日は、うつ病の業務起因性と休業補償給付不支給決定取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

メルシャン事件(東京地裁平成26年10月9日・労判1110号70頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、業務に起因して精神障害(うつ病)が発症したとして、労災保険法による休業補償給付を請求したところ、中央労働基準監督署長が平成23年2月8日付で同給付を支給しない旨の決定をしたことから、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 改正判断指針・認定基準は、裁判所による行政処分の違法性判断を直接拘束するものではないが、作成経緯や内容に照らせば相応の合理性を有しており、労災保険制度の趣旨にもかなうものである。そこで、業務と当該精神障害発症との相当因果関係を判断するに当たっては、改正判断指針・認定基準を踏まえつつ、当該労働者に関する精神障害の発症に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌することが相当である。

2 XのY社出向は、Xの体調等に配慮した上での暫定的な措置としてされた人事異動であることが認められるのであって、本件会社がXに対するパワーハラスメント又は退職勧奨の意図をもって、Y社出向中のXの処遇を決定したものとは認められない
・・・XがY社出向中に隔離され、ISO9001の審査員補資格の取得に関する学習・研究以外の仕事を一切与えられないというネグレクト行為を受けたとのX主張事実を認めることはできないから、これらの点をXが業務により受けた心理的負荷の出来事として考慮することはできない。

3 Aの叱責に関する品質保証部の関係者の認識は、①その対象がXに限られていたわけではなく、Xに対して行われた頻度も、品質保証部の他の従業員よりは多かったが、それは、Xがお客様相談室からのクレーム処理を担当しており、Aに対し頻繁に報告を要するものであったことが理由となっていた、②Aの叱責は、Xを指導する際に、それ自体として人格否定的な言辞を用いたり、内容として理不尽であったりしたことはなく、執拗な面はあったものの、内容としては理論的で、議論を戦わせているうちに口調が厳しくなっていったというものであり、Xの上記供述部分とは必ずしも符合しない。
・・・そうすると、Aの叱責の状況は、当時の品質保証部に在籍していた関係者が証言等する内容・程度を超えるものであったとは認めるに足りない。

配転や出向を退職勧奨の意図で行うと、違法無効と判断されることがあります。

本件では合理的な理由が認められたのでセーフでした。

また、パワハラについても、人格否定的な発言、理不尽な内容ではなく、叱責は指導の範囲と評価されたため、認定されませんでした。