セクハラ・パワハラ10(N社事件)

おはようございます。

今日は、労働条件の説明義務違反、パワハラを理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成26年8月13日・労経速2237号24頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、労働契約締結時において労働内容について説明する義務を怠り、また、Y社担当者からパワーハラスメントを受け、損害を被ったとして、民法709条及び715条に基づいて損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労契法4条1項は、使用者に対し、労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすべきことを定めているものの、同条項は使用者の努力義務規定あるいは訓示規定であって具体的な権利義務を定めたものとは言い難く、同条項から直ちに使用者の説明義務が認められるものではない

2 労基法15条1項は、使用者に対し、労働契約を締結する際、労働条件を明示することを義務付けており、労働条件には、労働者が従事すべき業務も含まれる。しかしながら、同条項違反の効果としては、即時解除権の発生と帰郷旅費請求権の発生とされており(労基法15条2項、3項)、労基法15条1項をもって、直ちに使用者に対して、労働条件に関して、違反した場合に損害賠償義務が生じるような私法上の具体的な説明義務を課したものとは解しがたい。また、実際問題としても、求人募集の時点と労働契約の締結時点においては、時間的な間隔があるため、求人募集の時点において示される労働条件と労働契約の締結時点において示される労働条件が食い違うことは往々にして生じうるところでもある。したがって、労基法15条1項は、労働契約を締結する際における労働条件を明示する義務を使用者に課したものといえるが、具体的な説明義務を使用者に課したものとまで解することはできず、同条項に反したからといって直ちに説明義務違反が生じると解することはできない

3 もっとも、求人募集に応募する労働者は、募集条件として示された内容が労働契約締結時に大きく変更されることはないであろうと期待して応募しているのであるから、使用者としては、かかる労働者の期待に著しく反してはならないという信義誠実義務を負うものと解することはできる

4 パワハラについては、一応の定義付けがなされ、行為の類型化が図られているものの、極めて抽象的な概念であり、これが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。具体的にはパワハラを行ったとされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条の所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。
本件についてみると、そもそも、Xがパワハラを受けたと主張する時期や前後の経緯などは明確でなく、そもそも、Xの主張するところをもって、民法上の不法行為が成立しえるものといえるのか疑問であるし、その点をおくとしても、CやEは、Xに対して、Xが主張するような言動をとったことはないと否定しており、Xの供述以外に、Xの主張を裏付ける客観的な証拠もない

上記判例のポイント1、2は驚くような内容ではありませんが、労使ともに理解しておくべき内容です。

パワハラについては、立証不十分のため認定してもらえませんでした。

十分に準備をしてから戦いに挑まないと、多くの言動は立証できないことをいいことに事実を否定されてしまいます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。