競業避止義務15(K社ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、在職中の守秘・競業避止義務違反等に関する裁判例を見てみましょう。

K社ほか事件(東京地裁平成23年6月15日・労判1034号29頁)

【事案の概要】

X社は、不動産賃貸借の管理受託およびこれらのコンサルタント等を業務とする会社であり、A社の100%子会社である。

A社の100%子会社のうち、X社はオーナー物件の賃貸・建物管理業務を行い、B社が区分所有建物の建物管理業務を行っていた。

Y1は、B社の従業員であった者であり、X社に出向して建物管理事業部リフレッシュ工事部に勤務していた。

Y1は、X社に出向していた間、業務上割り当てられた電子メールアドレスから、Y1が個人で使用する電子メールアドレスに添付送信する方法によって、X社の賃貸・建物管理業務に関する情報を、社外に持ち出した。

Y2社は、平成21年7月、不動産の売買・賃貸・管理およびその仲介業ならびに入居者募集に関する一切の業務等を行う会社として設立された会社であり、Y1は、Y2社の設立に伴い、その取締役に就任し、現在もY2社において取締役営業部長として勤務している。

X社は、賃貸・建物管理業務において、1物件1担当者制ではなく、分業制を採用しており、X社が取り扱う物件のオーナーの中にはX社が1物件1担当者制ではなく、分業制を採用していることに強い不満を持つ者がいた。

Y2社は、設立当初から、1物件1担当者制を採用することをY2社のコンセプトとして標榜し、E社物件のオーナーに対して、ダイレクトメールを送付し、オーナーに電話を直接かけるなどして、営業活動を行った。

X社は、Y1及びY2社に対し、在職中、X社の業務に関する情報を守秘義務に違反して持ち出したこと、競業避止義務に違反してY2社の営業を行ったことなどを理由として、労働契約または不法行為に基づき約5500万円の損害賠償等を請求した。

【裁判所の判断】

Y1及びY2に対し、連帯して約550万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Y1は、平成21年8月まではX社の従業員としての立場を有していたというべきであるから、Y1が同年7月に設立されたY2社の取締役に就任してY2社の営業に関与したことが、従業員としての競業避止義務に違反することは明らかというべきである。

2 Y1は、従業員としての守秘義務に違反して取得した本件情報(6月分)を利用して営業活動を行ったものと一応推認できるものの、その具体的な利用態様については、Y2社がE社物件に対して営業活動をかける際、本件情報に含まれたE物件のオーナーの住所・連絡先等の情報を利用したという限度において認められる。

3 上記検討によれば、Y1は、従業員としての立場において、その守秘義務に違反して本件情報を漏洩した上、その競業避止義務に違反してY2社の営業活動に関与したものであり、さらに、不正に漏洩した本件情報を、E社物件に対する営業活動において、少なくともオーナーの住所・連絡先等を利用することにより、違法な営業活動(競業活動)を行ったというべきである。Y1による上記営業活動は、従業員であった者として負っている労働契約上の付随義務に違反するのみならず、不法行為としての違法性を有する行為であることは明らかである(そうである以上、Y2社も使用者責任を負うというべきである。)。

4 不法行為による損害の有無・額について検討するに、(1)Y2社は、E物件(合計76件)のうち49物件のオーナーに対して営業活動をかえて、その際に本件情報を利用したものと推認できること、(2)Y2社は、短期間の間に14件もの物件について契約切替に成功しているが、これは極めて高確率な営業活動であったといえること、(3)X社のE社物件のうち、Y2社が関与しない形で平成21年4月以降に契約解除に至った物件は3件であること、(4)上記(1)~(3)によれば、本件情報を用いて広範囲かつ効率的な営業活動を行ったからこそ、契約切替に至ったものであると評価できることを総合考慮すれば、Y1らの不法行為による損害の発生はこれを認めることができる

請求金額と裁判所の認容金額を比較するとわかるとおり、損害額については非常に謙抑的に判断されることが多いです。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。