おはようございます。
さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否、更新拒絶に関する裁判例を見てみましょう。
パナソニックエコシステムズ(派遣労働)事件(名古屋地裁平成23年4月28日・労判1032号19頁)
【事案の概要】
Y社は、空調機器、環境機器等の開発・製造・販売などを目的とする会社である。
Xは、派遣会社B社からY社に派遣労働者として派遣される形式で就労していたが、Xは、平成21年3月末をもって、雇止めされた。
Xは、Xの雇用主は実質的にはY社であり、Y社との間で黙示の労働契約が期間の定めのないものとして成立していたものであり、雇止めの実質的主体もY社であるところ、Y社によるXの雇止めは解雇権の濫用であって解雇権の濫用であって解雇は無効であるとして、Y社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。
【裁判所の判断】
Y社との黙示の雇用契約の成立は否定
Y社に対して信義則違反の不法行為に対する慰謝料として100万円の支払いを命じた
【判例のポイント】
1 XのY社における就労は、A社を雇用主としていた当初は、偽装請負にあったが実態は労働者派遣であったものであり、仮に、Xの従事する業務が専門26業務にあたらないとした場合には、労働者派遣法上の派遣受入可能期間の制限に違反するという違法なものとなるけれども、本件全証拠を総合しても、XとY社との間に黙示の雇用契約が成立するといえる事情は、いまだ認めるに足りないというべきである。
2 XとY社との間に黙示の雇用契約の成立が認められないのは、前記のとおりであり、Xが、B社から雇止めにされたことについて、Y社に対し、雇用主であることを前提として解雇権の濫用であるとして法的責任を問うことは認められないというべきである。
3 Xは、平成16年8月に就業を開始して以降、複雑で高度に専門的な業務に習熟を重ね、作業標準書を作成し、それがマニュアルとして用いられるまでになり、当該業務の担当者としては、Y社の正社員を含め、自己に代わる人材が他にいないほどの重要な人材になり、Y社における上司からも厚い信頼を得て、頼りにされていたことや、・・・雇用の継続に配慮してくれており、自己に関して、これまで一度としてY社が近い将来におけて派遣を終了させる意向を有しているといったことを示唆されるようなことがなかったことなどから、Y社への派遣が近い将来打切りになるとは予想もしておらず、B社との間で平成20年11月に雇用期間を平成21年3月末までとする雇用契約を締結した際においてもまさか同日をもってY社への派遣が終了し、雇止めになることがあるということは思いもよらず、Xは、同年4月以降も当然派遣が継続すると考え、勤務に励んでいた。
それにもかかわらず、Xは、平成20年12月、上司から、他の部署から移籍してきた正社員に対し、Xが休んだときに困るのでXが行っている業務内容のすべてを教えるように指示され、Xがその指示に従って、自己がそれまでの勤務で培った知識、経験、ノウハウのすべてをその正社員に伝授し、自己の代わりが務まる人材として育成したところ、更新期間のわずか1か月前になって、突然あたかも騙し討ちのようにXを狙い撃ちにして派遣打切りを通告され、派遣元から解雇されるに至ったものであること、・・・が認められるのであり、かかるY社のXに対する仕打ちは、いかにY社が法的に雇用主の立場にないとはいえ、著しく信義にもとるものであり、ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者としての勤労生活を著しく脅かすものであって、派遣先として信義則違反の不法行為が成立というべきである。
4 なるほど、労働者派遣においては、派遣元が雇用主として派遣労働者に対して雇用契約上の契約責任を負うものであり、派遣先においては派遣労働者に対して契約上の責任を負うものではないけれども、派遣労働者を受け入れ、就労させるにおいては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当である。
5 しかして、Xは、Y社の派遣先としての上記信義則違反の不法行為により、派遣労働者としての勤労生活を著しく脅かされ、多大な精神的苦痛を被ったことが認められるところ、かかる精神的苦痛を慰藉するには、100万円が相当である。
派遣先会社との黙示の雇用契約の成否に関しては、従前通り、否定されてました。
これに対して、派遣先会社の派遣労働者に対する不法行為責任は肯定されました。
派遣先会社の不法行為責任は、黙示の雇用契約の成否に比べて、認められやすい傾向にあります。
派遣労働者側とすれば、派遣先会社の不法行為責任追及の際に、大変参考になる裁判例です。
派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。