おはようございます。
さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。
JWTジャパン事件(東京地裁平成20年7月29日・ウェストロー)
【事案の概要】
Y社は、世界的に展開する広告代理店のA社の日本法人であり、現在、二百数十名の従業員を擁している。
Xは、平成18年4月、Y社に採用され、クリエイティブディレクター(以下「CD」)として勤務してきた。
Xは、Y社から、不当な退職強要をされ、仕事から外されるという不法行為をされ、さらにY社が退職合意が成立したとして就労を拒まれているがそのような合意は成立していないと主張し、雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払並びに不法行為に基づく損害賠償を求めた。
【裁判所の判断】
雇用契約上の地位にあることを確認する。
損害賠償請求につき、慰謝料として60万円の支払を命じる。
【判例のポイント】
1 Xは、退職合意の成立を前提とした行動を一切取っていないものといえる。退職届も作成していないし、Y社との間で、退職の合意を確認する書面を作成してもいない。自ら職探しもしていない。自ら積極的に退職したいとか他社に移りますとも述べていない。Y社が退職合意が成立したと主張する平成18年3月7日のBとの面談においても、同人から退職勧奨されて、仕事は探してみる、と述べたが、X本人によれば、これは直接の上司に対し明確な拒否を示すこともできず、何とかその場を逃れるために述べたものと認められる。客観的な行動としてXが唯一行ったのは、Bから指示されて、A社に送る履歴書をBにメールで送信したのみであるが、同様に、これも直接の上司からの指示であったため、断ることができなくて取った行動と認められる。
・・・Y社は、Xはともかく退職の意思表示はしたのであり、その後再就職先など条件面で思うに任せなかったため翻意したような趣旨をも主張するが、再就職先などについてある程度見通しが明らかにならない状況では、退職するか否かを通常決し難く、そのような場合はいまだ退職の意思自体が確定的なものではないというべきである。殊に、Xの家族や家計の状況からすれば、通常転職には慎重になると考えられ、なおさらというべきである。
2 以上によれば、Y社主張の退職合意は成立していないというべきである。そうすると、Y社はXを解雇したなどの事実は存しないから、Xはなお雇用契約上の地位を有するというべきであり、その点に関するXの主張は理由がある。
3 上記認定のように、X・Y社間で退職を合意した事実は認められない。そして、Xは、退職を拒んでいたのに、Y社は上記認定のように多数回にわたり退職勧奨を行った。またY社は、上記合意が成立していないことを認識しながら、上記合意を前提に、Xを仕事から外し、出勤しても何もすることがない状況に置き、挙げ句には再就職活動に必要な期間を経過したとして会社に立ち入ることさえ拒否するに至った。この行為は不法行為を構成するというべきである。これによりXが著しい精神的苦痛を被ったことが認められる。この苦痛を慰謝するには、事案の内容、Xの地位その他一切の事情を考慮し、60万円の支払をもって相当と認める。
少し事案が特殊ですが、会社と従業員で、退職合意の有無について争いになった事案です。
退職勧奨が不法行為として認められ、慰謝料60万円が認められました。
退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら慎重に対応することが大切です。