不当労働行為22(川崎重工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、交渉主体と団交拒否に関する裁判例を見てみましょう。

川崎重工業事件(兵庫県労委平成23年6月9日・労判1029号95頁)

【事案の概要】

Y社は、平成20年のいわゆるリーマンショック以降、経営状況が悪化したため、21年秋から冬にかけてC工場の操業度が落ち込み、同工場の請負業務は新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約も順次中途解除する状況となった。

21年11月、Y社は、請負契約または労働者派遣契約に基づきC工場で鉄道車両の台車製造業務を行っていたA社及びB社に新たな請負業務を発注せず、労働者派遣契約を中途解除した。

C工場で働いていたA社およびB社の従業員Dらは、労働組合を結成した。

A社およびB社は、11月から12月にかけてDら組合員を解雇または雇止めとした。

11月、組合は、Y社に対して組合員の雇用に関する団交を申し入れた。

Y社は、組合員と直接の雇用関係になく、組合員の労働条件を決定する権限がないので、団交に応じられないと回答した。

組合は、Y社の団交拒否は、不当労働行為にあたると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 組合が本件団体交渉においてY社とA社とが一体となって解決することを求めているのは、組合員の解雇等の撤回ないしY社での雇用に関するものであるところ、組合は、これらの事項に関してY社が現実的かつ具体的な支配力を有していた事実として、組合員がY社の従業員と混在して働いていたこと、Y社の従業員から残業の指示を受けたこと、有給休暇を取得するに当たりY社の班長への届出が必要であったこと、Y社の従業員と一緒に朝礼に参加し、会社の課長等から業務指示を受けたことを指摘するにとどまり、これらの事実だけでは、組合員の雇用についてY社が現実的かつ具体的な支配力を有しているとまではいえない

2 団体交渉の当事者としての使用者性の判断は、労働組合法独自の観点から行うべきであって、会社に雇用契約の申込み義務がないというだけで、直ちに雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にないとして使用者性を否定するのは適切ではない。とりわけ本件のように派遣可能期間を超えている場合には、雇用契約の申込み義務がないとしても、労働者派遣法の趣旨は直接雇用を含めた雇用の安定を要請していると解することができ、実際に本件では兵庫労働局から同旨の指導が会社に対してなされていたことを考慮すると、なお雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にあると判断される余地もある

3 そこで、このような観点から、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するかどうかについて検討すると、組合からY社に対し団体交渉申入れがあった平成21年11月ころ、C工場では操業度が落ち込み、請負業務については新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約についても順次解除していく状況にあったことが認められる。・・・したがって、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するということはできない

4 以上のことから、Y社は、組合員に対する労働組合法上の使用者に当たらず、組合員の雇用に関する組合からの団体交渉の申入れに応じる義務を負うとはいえない。

上記ポイント1の事情からすると、Y社内では少なからず、偽装請負の状態が存在したことが窺われますが、労働委員会としては、これらの事情だけでは、Y社を組合員の労組法上の使用者とは認めませんでした。

正直、理解に苦しみますが・・・。 

実質的には、Y社が指揮命令をしていたように読めますが。 どうなんでしょうか。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。