労災が起こった場合、損害賠償について、労災保険だけでは賠償のすべては補償されません。
以下、簡単にまとめておきます。
1 治療費、休業補償、逸失利益などに対する既払の保険給付
既に支払われた保険給付の額は、会社が支払うべき損害賠償から控除されます。
そうでないと、二重払いになってしまいます。
ただし、保険給付は、主として治療費、休業補償や将来の逸失利益の補償だけを行うものであり、慰謝料や入院雑費・付添看護費等の補償は保険とは別に賠償しなければなりません。
つまり、労災保険ではカバーされていない損害については、会社が自ら手当てをしなければいけません。
2 将来の年金給付
死亡事故や障害等級7級以上の重い後遺障害の場合に、年金で支給されます。
将来給付分の年金給付については、会社が支払うべき損害賠償から控除されません!
これが現在の最高裁の判断です(三共自動車事件:最三小判昭和52年10月25日)。
ここは要注意です
また、この場合、会社が損害賠償義務を履行した場合、国に対して未支給の労災保険金を会社に支払えと代位しても、認められません(三共自動車事件:最一小判平成元年4月27日)。
3 特別支給金
労災保険では、被災者の所得補償として、通常の保険給付で約6割を、特別支給金で約2割を補償し、合計約8割をカバーしています。
この特別支給金については、将来分はもちろんのこと、既払分についても、損害額から控除することは認められません(コック食品事件:最二小判平成8年2月23日)。
4 遺族厚生年金
死亡した被災労働者の相続人が、その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得した場合には、支給を受けることが確定した遺族厚生年金は控除されます(最二小判平成15年12月17日)。
このように、労災保険でカバーされない部分がかなりあります。
会社としては、労災保険だけで労災についての賠償問題が解決するとは考えないほうがいいということです
労災は、事前の準備がカギとなります。