労働時間22(奈良県(医師・割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、産婦人科医の宿日直勤務や宅直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

奈良県(医師・割増賃金)事件(大阪高裁平成22年11月16日・労判1026号144頁)

【事案の概要】

Y病院は、奈良県が設置運営する病院である。

Xらは、Y病院の産婦人科に勤務する医師である。

Xらは、奈良県に対し、宿日直勤務および宅直勤務は労働時間であるとして、労基法37条の定める割増賃金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

宿日直勤務については、割増賃金の請求を認める。

宅直勤務については、割増賃金の請求を認めない。

【判例のポイント】

1 労働基準法41条3号の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない者、断続的労働とは、休憩時間は少ないが手待ち時間は多いものをいうと解されるところ、これらの労働は労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいことから、当該労働時間は、全て使用者の指揮命令下にある労働時間であることを前提とした上で、所轄労働基準監督署長の許可を受けることを条件として、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩やや休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解される。

2 Y病院の産婦人科医師の宿日直勤務は、その具体的な内容を問うまでもなく、外形的な事実自体からも、奈良労働基準監督署長が断続的な宿直又は日直として許可を行う際に想定していたものとはかけ離れた実態にあった、ということができる。このことに照らすと、奈良労働基準監督署長がY病院の宿日直勤務の許可を与えていたからといって、そのことのみにより、Xらの宿日直業務が労働基準法41条3号の断続的業務に該当するといえないことはもちろん、上記許可の存在から、Y病院における宿日直業務が断続的業務に当たると推認されるということもできない。

3 マンションの住み込み管理員が、雇用契約上の休日に断続的な業務に従事していた場合において、使用者が、管理員に対し、管理員室の証明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には、休日に業務を行うべきことを明示に指示していなかった事実関係の下では、使用者が休日に行うことを明示又は黙示に指示したと認められる業務に管理員が現実に従事した時間のみが、労働基準法32条の労働時間に当たる
ところが、本件で問題となっている宅直については、Y病院長がY病院の産婦人科医らに対し、明示又は黙示の業務命令に基づき宅直勤務を命じていたものとは認められないのであるから、Xらが宅直当番日に自宅や直ちにY病院に駆けつけることが出来る場所等で待機していても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができない
・・・以上のとおり、Xらの宅直勤務は、Y病院の明示又は黙示の業務命令に基づくとは認められないので、これが労働基準法上の労働時間に当たると認めることはできない。

4 とはいっても、Y病院の宅直制度が、医師は緊急の措置を要請された場合にはこれに応ずべきであるとする、プロフェッションとしての医師の職業意識に支えられた自主的な取組みであり、Y病院における極めて繁忙な業務実態からすると、現行の宅直制度の下における産婦人科医の負担は、プロフェッションとしての医師の職業意識から期待される限度を超える過重なものなのではないか、との疑いが生ずることも事実である(また、そもそも、雇用主である奈良県が、雇用される立場のXらのプロフェッションとしての医師の職業意識に依存した制度を運用することが正当なのかという疑問もある。)。
奈良県においては、Y病院における1人宿日直制度の下での宿日直担当医以外の産婦人科医の負担の実情を調査し、その負担(宅直制度の存否にかかわらない。)がプロフェッションとしての医師の職業意識により期待される限度を超えているのであれば、複数の産婦人科宿日直担当医を置くことを考慮するか、もしくは宿日直医の養成に応ずるため、自宅等で待機することを産婦人科医の業務と認め、その労働に対して適正な手当を支払うことを考慮すべきものと思われる。

少し前に、この事件の記事についてこのブログで取り上げました。

裁判所は、宿日直勤務を、労基法41条3号の断続的労働とは認めず、その全体についてY病院の指揮命令下にある労基法上の労働時間であるとして、割増賃金の請求を認容しました。

他方、宅直勤務については、医師の自主的な取組みであり、Y病院からの黙示の業務命令によるものとは認められないとして、労基法上の労働時間に当たらないとしました。

このような判断をしておきつつ、裁判所は、上記判例のポイント4で、バランスを保とうとしています。

こういうのを「蛇足」とかいわれちゃうんでしょうか・・・。 僕は、いいと思うんですけど。

なお、本件では、上告受理申立てがされているようです。 最高裁の判断が待たれます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。