賃金82(A税務署職員事件)

おはようございます。

さて、今日は、早期退職特例の適用の可否と過払退職手当の返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

A税務署職員事件(大阪地裁平成25年11月29日・労判1089号47頁)

【事案の概要】

Y社は、A税務署で勤務していたXが退職勧奨に応じて60歳の定年に達した後に退職した際、国家公務員退職手当法の経過措置規定を適用して退職手当の支給額を算定するに当たり、同法5条の3に規定する定年前早期退職者に対する退職手当の基本額に係る特例がY社に適用されると判断して上記支給額を算定した上で、Xに対して2958万0245円の退職手当を支給した。

本件は、Y社が、本来、Xには定年前早期退職特例が適用されないから、Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であり、本件退職手当との差額である102万9601円が過払いとなっていると主張して、Xに対し、公法上の不当利得に基づき、102万9601円及びこれに対する催告における納付期限の翌日である平成21年8月25日から支払い済みまで5%の遅延損害金の支払いを求める実質的当事者訴訟である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 ・・・そうすると、勧奨を受けて定年後に退職した者について、・・・「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に含めることは、退手法4条1項及び同5条1項が、一定期間以上勤務し非違によることなく勧奨を受けて退職した者について、退職手当の基本額を優遇することとした趣旨に合致しないものというべきである。

2 Xは、Y税務署長から、4パーセントの退職手当の割増しがされるらしいとの話を受け、国税庁及び大阪国税局の人事政策に協力するため退職を承諾したにもかかわらず、退職後2年も経過してから、Y社がXに対して本件過払金の返還を請求することは信義則に違反すると主張する
しかしながら、退手法に基づき本来Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であって、本件過払金については法律上の原因を欠くものである以上、Y社としては、債権を適正に管理するために、Xに対してその返還を求めるべき責務を負っているものというべきである。そして、法律による行政の原理の観点からすれば、行政行為に対する信義則の法理の適用について慎重に考えるべきものであるところ、仮に、Xが主張するような事情が存在したとしても、それだけでは、Y社がXに対して本件過払金の返還を求めることが正義に反するものということはできない。

3 Xは、退職の記念に中国旅行をするなどして本件過払金を費消したから、現存利益は存在しない旨主張する
しかしながら、本件過払金は、本件退職手当の一部として支給されたものであって、Xの固有財産に混入して固有財産と区別することができない以上、本件過払金について、現存利益の消滅を観念することはできないというべきである。また、仮に、Xが、本件過払金に相当する額を旅行費用として費消したとしても、当該費用の支出を免れた部分について、Xに現存利益が存在するものというべきである。

行政行為に対する信義則の法理の適用について裁判所の考え方を参考にしてください。

また、上記判例のポイント3は、民法703条の現存利益に関する裁判所の考え方がわかりますね。

現存利益に関する考え方については、いくつか最高裁判例がありますので、確認しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。