おはようございます。
さて、今日は、使用者の中立保持義務に関する裁判例を見てみましょう。
日産自動車事件(最高裁昭和60年4月23日・労判450号23頁)
【事案の概要】
Y社は、乗用車等の製造を業とする会社である。
Y社は、従来から工場の製造部門で昼夜2交替勤務体制および計画残業と称する恒常的な時間外・休日勤務体制をとっていた。
昭和41年8月にA会社を合併したY社は、翌年2月より上記両体制を旧Aの工場の製造部門にも導入した。
合併後のXには従業員の大多数を組織するX組合と、ごく少数の従業員を組織するのみとなったZ組合とが併存していたところ、Z組合は、かねてより深夜勤務に反対しており、Y社は上記両体制の導入に際し、X組合とのみ協議を行い、Z組合には何らの申入れ等を行わなかった。
そして、Y社は、X組合の組合員にのみ交代勤務・残業を命じ、Z組合の組合員については昼間勤務にのみ従事させ、残業を一切命じなかった。
Z組合は、Z組合の組合員に残業を命じないことはX組合の組合員と差別する不当労働行為であると主張した。
【裁判所の判断】
不当労働行為が成立する。
【事案の概要】
1 労組法のもとにおいて、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれ全く独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有するのであり、使用者と一方の組合との間では一定の労働条件の下残業に服する旨の協約が締結されたが、他方の組合との間では当該組合が上記労働条件に反対して協約締結に至らず、両組合の組合員間で残業に関して取扱いに差異が生じても、それは使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎず、一般的、抽象的には、不当労働行為の問題は生じない。
2 しかし、団体交渉の結果が組合の自由な意思決定に基づく選択によるものといいうる状況の存在が前提であり、この団体交渉における組合の自由な意思決定を実質的に担保するために、労組法は使用者に対し、労働組合の団結力に不当な影響を及ぼすような妨害行為を禁止している。このように、併存する各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されており、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられ、また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されない。
3 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなされるべきではない。
4 しかし、団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為であり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する。
5 本件では、上記特段の事情が認められ、不当労働行為が成立するとした原審の判断は是認できる。
複数組合併存下における使用者の中立保持義務に関する最高裁判例です。
上記判例のポイント4の「当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情」があると認定されないように気をつけなければいけません。
会社としては、中立かつ誠実に各組合と交渉をすることが求められています。
組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。