賃金29(ドラール事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職金支給の有無や支給額を従業員ごとに決定できるかについて判断した裁判例を見てみましょう。

ドラール事件(札幌地裁平成14年2月15日・労判837号66頁)

【事案の概要】

Y社は、建築材料の卸販売並びにタイル工事の設計及び請負等を目的とする会社である。

Xは、平成12年3月までY社の従業員であったが、依願退職した。

Y社では、会社業績の悪化に伴い、退職金について、取締役会で個別の従業員について、退職金を支給するか否か、支給するとしていくら支給するかを決めることができるように就業規則を改定した。

これに基づき、退職金が支給されなかったXは、本件就業規則の不利益変更は無効であるから、それに基づく取締役会決議も無効であると主張し、改定前の就業規則に基づく退職金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 そして、上記合理性の有無は、使用者側の就業規則変更の必要性の内容・程度、就業規則の変更により労働者が被る不利益の程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯等を総合考慮して判断すべきである。

3 Y社は、就業規則変更当時、営業収益は約60億円から48億円に減少、営業利益は、約1億4000万円を確保していたものが約4000万円に激減し、経常利益も約2億円あったものが約8000万円に半減し、また、税引後当期純利益も約1億円あったものが約4291万円に半減した。
しかしながら、この改定にあたって、今後の退職者数及び退職金支給額の見込みや、収益改善のために他のどのような対策があり、退職金支給額の圧縮が避けられないものか否かについて具体的な検討がされたのか明らかでない。

4 本件改定にあたり代償措置やこれを緩和する措置を設けたり、関連する他の労働条件を改善したと認めるに足りる証拠はない

5 本件改定にあたり、従業員の過半数で組織する労働組合又は従業員の過半数を代表する者の意見を聴取したと認めるに足りる証拠はない

あてはめのしかたを学ぶにはとてもよい事案です。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。