労働時間35(エンゼル事件)

おはようございます。

 

今日は、マンションの管理人らの時間外労働等の賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

エンゼル事件(新潟地裁長岡支部平成25年10月24日・労経速2195号9頁)

【事案の概要】

本件は、リゾートマンションの管理組合から管理業務の委託を受けていたY社に雇用されていたXらが、雇用期間中、時間外労働及び時間外かつ深夜労働をしたとして、Y社に対し、平成23年9月10日までの未払に係る労働基準法所定の時間外労働等に係る賃金及び付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらが、Y社から本件マンションの管理業務として、本件マンション出入口、駐車場出入口及び南側避難経路部分等の除雪をするよう指示され、8時前あるいは降雪量の多い日は17時以降も除雪業務に従事したことがあったが、Y社がXらに対し降雪量等に応じて8時前ないし17時以降に除雪作業に従事するよう業務として指示していたことを明らかにする証拠はなく、また、Xらが8時前あるいは17時以降に除雪作業に従事した日が具体的にいつであったのかを認めるに足りる証拠もない。そうすると、XがY社の業務として8時前あるいは17時以降に除雪作業をしたと認めることはできないというべきである

2 ・・・17時から本件大浴場の営業終了までの時間は、Xらは自由に過ごすことができ、管理人として行うことを指示された業務はなく、物理的・時間的に一切の拘束を受けていなかったのであるから、17時から本件大浴場の営業終了までの時間については、上記の指示された作業をしていた時間についてのみ時間外労働をしたと認めることができるというほかない

3 Xらは、本件大浴場営業日において、Y社に業務として指示されて、営業開始が8時30分の日は6時30分頃から1階管理人室内にあるボイラーの点火スイッチを押す点火作業及びモニターで点火を確認する作業を15分以内とみられる短時間、営業終了が20時、21時ないし22時である日はその後ボイラーの点火スイッチを切って消火するとともに本件大浴場を巡回して設備の異常がないかを点検し、消灯と施錠を行う作業を30分以内とみられる短時間それぞれしていたことが認められる

4 Y社は、平成23年9月までに、Xらが主張する時間外労働等のうち、本件大浴場が営業する日については、・・・支払ったところ、この支払額は、Xらが請求する平成21年8月11日から平成23年9月10日までの賃金支給日に支給すべき時間外労働等の時間及び賃金額(更には遅延損害金)に見合うものといえる。そうすると、XらにはY社に対する時間外賃金等の請求権は存在せず、したがって付加金請求権も存在しないということができる。

時間外労働に関する指揮命令の存在と時間外労働の存在を立証しきれていないので、このような判断になっています。

現実には、労働時間をちゃんと管理していない会社において、労働者が正確に時間外労働を立証することは極めて困難です。

確かに立証責任は労働者(原告)側にあるわけですが、ある程度、立証責任を緩和しないと、労働時間の管理をちゃんとやらない会社のほうが訴訟では有利になるというのもいかがなものかと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。