解雇129(東京都(M局職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は約3年間で72回に及ぶ遅刻等を理由とする停職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう(解雇事案ではありませんが、懲戒処分のカテゴリーがないので、便宜的に解雇のカテゴリーに入れました。)。

東京都(M局職員)事件(東京地裁平成25年6月6日・労判1081号49頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がその職員であるXに対し停職3月の懲戒処分を行ったところ、Xが、Y社に対し、本件停職処分の取消しを求めるとともに、本件停職処分等に伴う減収分や慰謝料等として557万0198円の損害賠償の支払いを求めている事案である。

なお、本件停職処分は、Xが、平成18年4月1日から平成21年7月15日までの間に、少なくとも72回にわたり、電車の遅延等を理由として出勤時限に遅れた上、72回のうち71回について、部下の職員に指示して、出勤記録を出勤の表示に修正させたことが地方公務員法32条及び35条の規定に違反し、同法29条1項1号から3号までの規定に該当することを根拠とするものである。

【裁判所の判断】

停職処分は無効
→停職処分に伴う減収分および慰謝料等として386万1239円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Y社が本件停職処分の対象とした72回の出勤時限に遅れたとの事実は、本件全証拠によっても、その全てが客観的事実であると認めるに足りないものといわざるを得ない。確かにそのうちの一定の部分については客観的事実に沿うものであることがうかがわれ、この点はX自身も自認するところではある。しかしながら、Xが出勤時限に遅れたことがいつ、いかなる回数あったのかについて、具体的に特定することは困難といわざるを得ない

2 Y社が本件停職処分の対象とした72回にわたり出勤時限に遅れたとの事実及び71回にわたる出勤記録の出勤の表示への修正指示の事実は、Xが出勤時限に遅れたことが一定の回数あったことが認められるに止まり、その回数や日付を具体的に特定することは困難であると認められる。また、具体的な修正指示があったことを認めることは困難であるから、結局、本件停職処分は、その根拠となる主要な事実の存在を認めるに足りないものというほかなく、違法な処分として取り消されるべきものである

3 Y社が本件停職処分に至ったのは、Y社の担当職員がXの弁明にもかかわらず、職務上通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分の根拠となる72回の出勤時限の遅参と71回の出勤記録の修正指示を認定したことにあるといわざるを得ないから、Y社による本件停職処分は国家賠償法上も違法であり、Y社はこれによりXが被った損害を賠償する責任があるというべきである。
また、Y社は、M局の45歳の男性副参事に対し本件停職処分を行ったことを報道機関及びY社ホームページ等に講評し、本件停職処分の対象者として、Xの実名こそ報道されなかったものの、所属局名、職層、年齢、性別が報道されたことが認められるが、Y社による本件停職処分の公表も、Y社が通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分が行われたことによるものと認められるから、Y社はこれによりXが被った損害についても賠償する責任があるというべきである

「72回の遅刻と71回の出勤記録の修正指示をしたにもかかわらず、停職処分は無効なんて・・・」と考えるのは早計です。

会社側が調査を十分に尽くすことなく、懲戒処分に踏み切ったことから、訴訟になり、懲戒処分の対象事実を立証できなかったわけです。

解雇理由をはじめとして、懲戒処分をする際は、十分な調査をした上で、慎重に処分をすることをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。