賃金14(ノイズ研究所事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き賃金制度改定による賃金・賞与減額に関する裁判例を見てみましょう。

ノイズ研究所事件(東京高裁平成18年6月22日判決・労判920号5頁)

【事案の概要】

Y社は、電子機器の電源雑音を検査する測定器の製作及び販売、コンピュータ利用施設の電磁波の影響調査、測定及びその施設の電磁波防護対策事業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社は、就業規則の性質を有する給与規程等の変更を行い、これによりY社の賃金制度はいわゆる職能資格制度に基づき職能給を支給する年功序列型の従前の賃金制度から、職務の等級の格付けを行ってこれに基づき職務給を支給することとし、人事評価次第で昇格も降格もあり得ることとする成果主義に立つ新たな賃金制度に変更された。

その結果、Xは新賃金制度の下において職務等級を降格され賃金を減額されたが、本件給与規程等の変更は無効であり、Xはこれに拘束されない等と主張した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件給与規程等の変更前は就業規則等のうちに従業員に対する制裁規定以外に降格、減給について定めている規定はなかったのであるが、本件給与規程等の変更により、職能給が廃止されて職務給とされ、各職務が分類、格付けされてこれに基づいて各従業員に職務給が支給されるに至ったのであるから、本件給与規程等の変更が合理性がないなどの理由により無効である場合は別として、Xが従事していた職務の格付けに基づいて職務給が決定されたことをもって就業規則に違反するということはできず、就業規則の従業員に対する制裁規定をもって、職務給制度を導入することを禁止する趣旨の規定であるともいいがたい。

2 労使間では、新賃金制度導入および新等級格付けに関する協議において、調整手当の支給高額対象者の調整手当金額相当分を基本給に上乗せするために、その金額に見合う職位に格付けを行うとの案をめぐって対立し、合意に至らなかったのであるから、上記の案の実施についても頓挫したものというほかはなく、結局労使間では、本件給与規程等の変更についての合意が成立しなかった経過に照らすと、Y社がXら組合員との団体交渉を正当な理由なく拒否して本件給与規程等の変更を強行したということはできないし、労働協約の「賃金、労働時間、休暇などの労働条件の改変については、組合との団体交渉によって協議のうえ実施する。」との記載に違反するということもできない。

3 本件給与規程等の変更による本件賃金制度の変更は、旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より賃金額が顕著に減少することとなる可能性がある点において不利益性があるが、Y社は、主力商品の競争が激化した経営状況の中で、従業員の労働生産性を高めて競争力を強化する高度の必要性があったのであり、新賃金制度は、従業員に対して支給する賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであって、どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇給することができるという平等な機会を保障しており、人事評価制度についても最低限度必要とされる程度の合理性を肯定し得るものであることからすれば、上記の必要性に見合ったものとして相当であり、Y社があらかじめ従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属する労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めていたという労使の交渉の経緯や、それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られたことなど諸事情を総合考慮するならば、上記のとおり不利益性があり、現実に採られた経過措置が2年間に限って賃金減額分の一部を補てんするにとどまるものであっていささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとはいえない点を考慮しても、なお、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない。

4 新賃金制度下においてY社が行う人事評価は、事柄の性質上使用者であるY社の裁量判断に委ねられているものであるということができるから、Y社が行った人事評価は、これが法令に違反したものであり、またはこれに裁量権の逸脱、濫用があったといえない限り、違法の問題を来さない。

上記判例のポイント3は参考になりますね。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。