配転・出向・転籍54 職務限定合意が否定され、配転命令が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職務限定合意が否定され、配転命令が有効とされた事案を見ていきましょう。

東京女子医科大学事件(東京地裁令和5年2月16日・労経速2529号21頁)

【事案の概要】

本件は、学校法人であるY社との間で労働契約を締結したXが、Y社がXに対してした各配転における内分泌内科学講座の教授・講座主任から内科学口座高血圧学分野の教授・基幹分野長とする旨の配転に及びY社が設置する東京女子医科大学病院における高血圧・内分泌内科の診療部長から高血圧内科の診療部長とする旨の配転の命令がいずれも無効であると主張して、Y社に対し、本件各配転先の職位として各勤務する義務がないことの確認を求めるとともに、本件配転命令1が不法行為であり、本件配転命令を決定、執行するに当たり、Y社の役員であるA及びBに悪意又は重過失があったなどと主張して、Y社に対しては民法709条に基づき、A及びBに対しては私立学校法44条の3第1項に基づき、連帯して慰謝料等330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1Xの採用の経緯等に照らすと、Xは、Y社において、高血圧と内分泌疾患の双方に専門的知見を有する医師として採用され、その職務内容としても、当初から、そのいずれも対象とすることが予定されていたというべきである。そうすると、Xの職務の専門性から従前の職務と全く関連しない職務へと一方的に変更されないことは格別、従前の職務と密接に関連し、あるいはその一部となる職務については、一切の変更や限定が許さない旨の職務限定合意があったとは認められない。また、本件各配転命令はいずれも、Xの職務内容を、高血圧と内分泌疾患の双方を対象とする従前の職務内容からその一部へと限定するものにすぎないから、XとY社間の職務限定合意に反しないというべきである。

2 高血圧については、日本高血圧学会において学術集会等が開催されるとともに、高血圧専門医制度が設けられていることが認められ、他大学において内分泌内科学分野とは別に高血圧学分野を設置した例はないが、他大学との差別化を図り、既存の講座体系をより高度に専門化する必要があり、そうした観点から、本件大学において高血圧学分野を設置することにおよそ合理性がないとはいえない。また、Xは高血圧と内分泌疾患の双方に専門的知見を有する医師として採用され、雇用契約上も、元々高血圧について相応に研究、診療等に従事することが求められていた。そうすると、本件大学及び本件病院において、高血圧に特化した分野又は診療科を設け、これにXを配転することは、Y社の合理的運営に寄与するものであり、業務上の必要性があったといえる。

職種限定の合意の有無、配転命令の有効性のいずれについても常識的な判断だと思います。

これらの争点について裁判所がどのような点に着目して判断しているのかをしっかりと理解しておく必要があります。

微妙な事案において、配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。