解雇384 異動命令の有効性は肯定されたが、非違行為は認定されず、懲戒解雇の有効性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

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今日は、異動命令の有効性は肯定されたが、非違行為は認定されず、懲戒解雇の有効性が否定された事案を見ていきましょう。

スルガ銀行事件(東京地裁令和4年6月23日・労経速2503号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて営業本部パーソナル・バンク長を務めていたが、平成30年4月1日付けで経営企画部詰審議役への異動を命じられ、これに伴い、給与が減額され、同年11月27日付けで懲戒解雇されたXが、Y社に対し、本件異動命令及び本件懲戒解雇がいずれも無効であると主張して、①Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②本件異動命令以降本件懲戒解雇まで(平成30年4月分から同年11月分まで)の差額賃金及び本件懲戒解雇後の平成30年12月分から平成31年2月分までの賃金の合計として1607万6848円の支払、③遅延損害金の支払を求め、④違法な懲戒解雇等を行った不法行為に基づき、慰謝料800万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 150万円
(2) 平成31年3月から令和2年3月まで毎月22日限り50万円+遅延損害金
(3) 令和2年4月から令和3年7月まで毎月22日限り50万円+遅延損害金

【判例のポイント】

1 人事権の行使としての異動命令と、企業秩序の違反に対する懲戒権の行使である懲戒処分とは、本質的に異なるものであるところ、Y社は、本件異動命令をした際には、これを人事異動として社内掲示板に掲載し、本件懲戒解雇時と異なり、Xに対する弁明の機会の付与や懲戒処分通知書の交付といった手続を行っていないこと、「経営企画部詰審議役」への異動は、組織規程25条、本件協定5条に基づき、Y社が人事権の行使として決定し得る範囲のものであることを考慮すると、本件異動命令は人事権の行使として行われたものと認めるのが相当である。

2 人事権の行使と懲戒処分とは、その根拠も有効要件も異なるものであり、使用者はその相違を踏まえた上で人事権の行使又は懲戒処分として当該措置を執っていることを考慮すると、当該措置が人事権の行使と懲戒処分のいずれであるかを使用者の主観的意図と無関係に判断することが相当とはいえない
そして、本件異動命令が行われた当時は、e社の支払停止が発生し、e社(又はその関連会社であるg社)から家賃の支払を受けられない債務者(顧客)がY社に対する返済に窮し、シェアハウスローンが回収困難となるおそれが顕在化したことから、危機管理委員会による事実関係の調査が開始され、いずれ金融庁の検査が行われることも予想される事態となっていたことを考慮すると、Y社が、上記調査や検査に適切に対応するために、シェアハウスローンに関与してきた営業部門のトップの地位にあったXをそのままその地位に置いておくことはできないと判断したことが合理性を欠くとはいえず、本件異動命令について業務上の必要性がないとはいえない
仮に、Y社が本件異動命令を行うに当たり、Xに対する制裁目的があったとすれば、Y社が懲戒処分を意図したことを基礎づける事情にはなり得る
しかし、Xが、C会長から「シェアハウスの一連の問題があったので降りてもらう。」と告げられたとする点は、X本人の陳述書によっても、執行役員の辞任についての発言である上、Y社においては、この頃、危機管理委員会を設置して事実関係の調査を開始したばかりであったのであるから、Xに「一連の問題」の責任を取らせるには時期尚早であるともいえ、C会長の上記発言をもって本件異動命令に制裁目的があったと認めることはできない。また、G人事部長が金融庁からのヒアリングへの対応のため原告に対して退職願の撤回を求めた事実は、本件異動命令の制裁目的を推認させるものではない

人事権の行使と懲戒処分が錯綜する事案は決して少なくありません。

本裁判例で出てくる「業務上の必要性」、「制裁目的」といったキーワードを理解することがまずは大切です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。