おはようございます。
さて、今日は、私傷病と解雇に関する裁判例について見てみましょう。
最近、私が関心を持っている分野なので、同種の事案が続きます。
北海道龍谷学園事件(札幌高裁平成11年7月9日・労判764号17頁)
【事案の概要】
Y社は、高校を営む学校法人である。
Xは、Y社に雇用され、保健体育の教諭の職にあった。
Xは、授業中に脳出血で倒れ、右半身不随となり(当時46歳)、入院治療を受けた。
Xは、2年あまり後、復職を申し出たが、Y社はこれを拒絶した。
なお、Xは、入院中も通信教育を受け、高校の公民、地理歴史の教員免許を取得していた。
Yは、Xを保健体育の時間講師として採用し様子を見ると提案したが、Xはこれを拒否し、その後、Y社は、Xが就業規則の「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するものとしてXに通常解雇を通知した。
Xは、解雇は無効であるとして、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めた。
【裁判所の判断】
解雇は有効
【判例のポイント】
1 Xは、解雇通知を受けた当時において、Y社における体育教諭として要請される保健体育授業での各種運動競技の実技指導を行うことはほとんど不可能であったし、教室内等の普通授業においても発語・書字力がその速度・程度とも少なくとも未成熟な生徒を対象とすることが多い高等学校の教諭としての実用的な水準に達しないことから多大の困難が予想され、とりわけ、授業・部活動中の生徒の傷害等事故の発生時に適切な措置をとることができないことが確実であり、その余の分掌事務(例えば、学園祭における各種行事の実行指導とか、修学旅行の付き添いなど)か、相当の困難が伴う身体状況にあったものと認められ、これらを擁するに、Xの身体能力等は、体育の実技の指導・緊急時の対処能力及び口頭による教育・指導の場面等においてY社における保健体育の教育としての身体的資質・能力水準に達していなかったものであるから、Y社での保健体育教員としての業務に耐えられないものと認めざるを得ない。
2 もっとも、Xに対して適宜に補助者を付け、分担すべき業務を軽減し、また平素の授業における生徒の理解と協力を得られるならば、Xが保健体育の教員としての業務を遂行できる場合がありうること、Xが身体障害を克服する努力を続ける中で生徒の理解と協力を得つつ教員として活動することでXが主張するような教育的効果を期待し得る場合があることは、いずれも首肯し得ないではない。
しかし、本件においては、Xがその「身体の障害」によってY社の就業規則所定の「業務に堪えられない」と認められるかどうかが争点であって、Xが主張するような補助や教育的効果に対する期待(ただし、現実問題としてこれらが常に随伴するとは考え難い。)がなければ、Xが教員としての業務を全うすることができないのであれば、Xは身体の障害により業務に堪えられないもの、すなわち、同規則に該当するものであることを肯定するに等しいものというべきである。
3 また、Xは、公民、地理歴史の教諭資格を取得したから同科目の業務に従事することができると主張するが、Xは保健体育の教諭資格者としてY社に雇用されたのであるから、雇用契約上保健体育の教諭としての労務に従事する債務を負担したものである。したがって、就業規則の適用上Xの「業務」は保健体育の教諭としての労務をいうべきであり、公民、地理歴史の教諭としての業務の可否を論ずる余地はないというべきである。
第1審では、Xが傷害を負いながらもこれを克服するために懸命に努力する姿を示すことは生徒への教育的効果も期待でき、この点を考慮に入れるべきであるとの指摘も行った上で、Xが業務に堪えられないとはいえず、解雇は無効であると判断されました。
これに対し、控訴審は、上記のとおり判断し、解雇は有効であると判断しました。
第1審は、Xが教育に携わる者であるという実質を重視したのに対し、控訴審は、あくまで就業規則の文言の形式的解釈を重視したというものです。
立場により、主張するポイントが異なるという点では、参考になる裁判例ですね。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。