継続雇用制度34 無期転換直後に定年を迎えた労働者への継続雇用拒否が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無期転換直後に定年を迎えた労働者への継続雇用拒否が有効とされた事案を見ていきましょう。

一般財団法人NHKサービスセンター事件(横浜地裁川崎支部令和3年11月30日・労経速2477号18頁)

【事案の概要】

本件は、平成14年4月から、1年契約更新で、NHK視聴者コールセンターにおいて、視聴者対応を行うコミュニケーターとしてY社に採用され、17回にわたり契約更新を行い、平成31年には無期労働契約への転換権を行使し、これがY社において受理されたため、令和元年8月以降契約期間の定めのない労働者となったXが、60歳の定年を迎える同年末をもってY社を退職することとされ、Xの希望に反しY社に継続雇用されなかったことが、実質的には高年法に反し、労働契約法18条の趣旨に反する雇止めであるとして、Y社に対し、XがY社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づく賃金(バックペイ)+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社がXに対し、要注意視聴者に対する刑事や民事上の法的措置をとることなどにより、要注意視聴者によるわいせつ発言や暴言等に触れさせないようにすべき安全配慮義務を怠り、これによってXが精神的苦痛を受けたとして、雇用契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反に基づき損害賠償(慰謝料)100万円及び弁護士費用10万円たす遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社に在籍する約150人のコミュニケーターには、公平・公正、自主・自律、不偏不党を旨とするNHKの方針に則り、個人的意見を述べないことなどが要請されており、また極力均一なサービスを視聴者に提供すべく、コミュニケーターは策定された視聴者対応のためのルールに従うことが強く求められている。
しかし、Xは視聴者との電話対応で度々トラブルになっており、それもY社の作成したルールを遵守せず、ひいてはそこから逸脱して、感情的にいわゆる売り言葉に買い言葉となって口論に発展した場面が少なくない。これらのXの視聴者対応は、中にはそれ1つを取り上げれば比較的些細なものとみうる余地があるとしても、それが度々繰り返された以上、Xの電話対応の問題や不適切さを示すものにほかならず、全体を総合してみればY社が策定したルール及び就業規則に反するといわざるを得ない
また、Xは、視聴者対応について平成19年以降再三にわたりY社からルール違反等を指摘され注意・指導を受けながらも、自己の対応が正当であるとの思いから、指導を受け入れて改善する意欲に乏しく、指導を受け入れずに勤務を続けていたことが認められる。

2 「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」が定める、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由に該当し、継続雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるというほかはない。
そして、問題となるXの電話対応の内容及びその頻度並びにこれまでのY社のXに対する多数回にわたる注意・指導の経緯及びXの改善意思の欠如等に鑑みれば、本件継続雇用拒否が重すぎて妥当性を欠くとは認められない。

上記判例のポイント1の「中にはそれ1つを取り上げれば比較的些細なものとみうる余地があるとしても、それが度々繰り返された以上、Xの電話対応の問題や不適切さを示すものにほかならず」との理解のしかたは注意が必要です。

一般的には、些細な非違行為をたくさん寄せ集めても、それをもって解雇や雇止めの合理的理由があると認定することはありません。

また、本件同様の事案の場合には、注意・指導のエビデンスをどのように残すかに留意する必要があります。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。