解雇368 合意解約申込みの撤回が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、合意解約申込みの撤回が認められなかった事案を見ていきましょう。

日東電工事件(広島地裁福山支部令和3年12月23日・労経速2474号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Xについて辞職又は合意解約を理由とする上記労働契約の終了の効果が生じておらず、かつ、上記労働契約が労働契約法19条によって更新されたと主張し、Y社に対し、(1)Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)賃金請求、(3)賞与請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件各退職願の内容をみると、その提出行為が辞職の意思表示であるか合意解約の申込みの意思表示であるかはともかく、少なくとも、XとY社との間の労働契約を終了させる意思を表示したものであることは明らかであるから、本件各退職願の提出は、退職の意思表示であると認めるのが相当である。

2 辞職は、労働者の一方的意思表示による労働契約の解約であって、使用者に到達した時点で解約告知としての効力を生じ、これを撤回することはできない。辞職の意思表示がこのような法的効果を有するものであることを考慮すると、退職の意思表示が辞職の意思表示であるといえるためには、明確に辞職の意思表示であると解し得る状況であったことを要するというべきである。
確かに、Xは、本件各退職願の提出の数分後に、Pに対し、「辞めることになりました」などという内容のメールを送信しており、このようなXの行動を考慮すると、本件各退職願の提出行為をもって辞職の意思表示であると解する余地は十分にある。しかし、本件各退職願の記載内容からすれば、その提出行為をもって撤回の余地のない辞職の意思表示であると解することが相当であるといえるかは疑問を差し挟む余地があるし、Xに適用されるY社の就業規則の規定内容も考慮すると、辞職の意思表示であると明確に解し得る状況であったとみるには疑問がある
本件各退職願の提出行為は、合意解約の申込みの意思表示であると認めるのが相当である。

3 本件話合いにおける「撤回」との文言に関連するXの言動は、自己都合による退職となるか会社都合による退職となるかを関心事としていたXが、会社都合による退職となるよう交渉する手段として行ったものにすぎないとみることもあり得るところである。加えて、Xが、本件話合いにおいて、本件各退職願の返還を求めるなどしておらず、合意解約の申込みの意思表示を撤回したことと整合しない行動をとっていたことも考慮すると、本件話合いにおいて、合意解約の申込みの意思表示をXが撤回したと認めるには足りない

本件の「退職願」には、「今般、 年 月 日付で退職いたしたくご許可下さるようお願い申し上げます。」と記載されており、Y社の承諾が求められているような記載になっていました。

労働者には退職の自由が認められていますので、退職にあたり使用者の許可は必要ありませんが、仮に本件同様の退職願が提出された場合には、会社としては速やかに許可・承諾をすることによって、退職の意思表示の撤回を回避することができます。

退職合意をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。