セクハラ・パワハラ66 第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地裁令和3年5月21日・労経速2459号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が運営するaセンターのセンター長の職に就いていたXが、①Y社に対し、Y社がしたXの懲戒解雇は懲戒事由を欠いた違法なものであると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件契約に基づく賃金請求権に基づき、未払賃金及び未払賞与+遅延損害金の支払を求め、さらに、②Y社らに対し、違法な本件懲戒解雇と、本件懲戒解雇に至る過程におけるY社代表者であるA理事長及びその娘であるY2による執拗な嫌がらせによって精神的苦痛を被ったと主張して、Y社は社会福祉法45条の17、一般社団法人法78条に基づき、Y2は民法709条に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 平成22年頃、Gが、Xの許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行い、一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨Xに伝えたところ、Xが当該施設利用者に対して実習を行うこととした理由等を尋ねたこと、これに対してGがとるべき対応を聞いたところ、Xが自ら考えるよう告げたことは当事者間に争いがない。
Y社らは、Y2がK同席のもとでGから聞き取ったとする内容が記載された書面にGが署名をした文書を提出し、同書面中には、番号2-1に関するY社らの主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社ら主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、G報告書の番号2-1に関する記載内容には、当該対応があった時期を特定する記載はない一方で会話の内容等は相応に詳細であるところ、聞き取りが行われた平成30年時点で既に8年が経過している事実について詳細な聞き取りが可能であった理由が何ら明らかでなく、また、その記載内容からすれば、当該対応の前提となる事実関係に関する客観的な資料(少なくとも施設利用者に関して本件センターが作成した文書、当該実習に関して作成された決済関係の資料等)が存在するはずであるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。本件調査報告書中の番号2-1に関する記載も、G報告書同様、客観資料に基づく裏付けがない。そうすると、これらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社ら主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社らの主張を認めるに足りる適切な証拠はない。

2 まず、Xは、職員が入所者の支援に行き詰った時には、原点回帰して思考を整理するための質問を行ったり、自ら考えることを促したりする旨主張し、X本人はこれに沿う供述をしているところ、本件センターが、障害があっても自分らしい生活を送ることができるよう、適切な支援を提供し、利用者を主体として、自立と自律を柱とする各々の目標に向けた能力獲得のためのトレーニングを実施すること等を理念、特長としており、施設利用者それぞれの障害や個性に応じたサービスの提供を謳っていることからすれば、Xが主張する上記業務方針は、本件センターの理念等と整合するといえ、Xがそのような対応をすること自体は通常の業務指示と評価することができる。そして、Gが行った実習はXの許可を得ていたものではあるものの、一定の問題が生じていたというのであるから、当該問題に対する対応を含め、実習の目的等を確認することや、改善方法等をGに考えさせることは通常の業務の範疇のやりとりと解される。その他に、Xの言動がGに対するパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる具体的な経緯や事情の存在は認められない
したがって、番号2-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。

第三者委員会はパワハラを認定したようですが、裁判所は上記のとおり、パワハラの存在を否定しました。

裁判官においてすら原審と控訴審で評価が異なることは珍しくありませんので特におかしなことではありません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。