セクハラ・パワハラ65 パワハラの調査過程に違法が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幼稚園の園長のパワハラ行為は否定されたが、被告の調査過程に違法が認められた事案を見ていきましょう。

京丹後市事件(京都地裁令和3年5月27日・労経速2462号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に任用され,幼稚園の教諭として勤務していたXが、①平成27年度に勤務していたa幼稚園のB園長からパワーハラスメントに当たる言動等を受けたこと、②Y市が、上記パワハラについて適切な調査を怠ったこと、③上記パワハラの証拠としてY市に提出したXの日記のコピーを、Xの承諾なく、Y市職員によって複製され、また、市長以外の者に閲覧され、さらに、地方公務員災害補償基金京都支部及びB園長に交付されるなどしたこと、④Y市職員に対し、同日記のコピーの返還を求めたが、返還してもらえなかったことにより、うつ病を発症し、又はうつ病が悪化したなどと主張して、安全配慮義務違反による債務不履行又は国家賠償法1条に基づき、損害賠償金1695万9246円+遅延損害金の支払を求めるとともに、⑤違法な分限免職処分を受けたこと及び⑥上記分限免職処分後に、Y市から、緊急時職員参集に係るテストメールを誤送信されたことにより、精神的苦痛を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金55万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y市は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y市職員が、公務災害補償基金に対し、本件日記のコピーを提供した行為は、Xのプライバシーに係る情報の目的外利用に当たるところ、Xが上記行為を当然に許容していたと評価することはできず、また、条例に基づく行為であるともいえないから、Xの事前の同意がない限り、許されないというべきである。そして、本件日記には、XがB園長から受けたとされるパワハラの内容やそれを受けてのXの思いなどが記載されており、その秘匿性も相当程度高いことにも照らせば、Y市職員の上記行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

2 パワハラの調査目的のためであるからといって、B園長に対して本件日記のコピーそのものを交付して書き込みをさせ、それを保管させることは、Xのプライバシーに係る情報の適切な管理に係る合理的な期待を裏切るもので、必要性・相当性の認められる範囲を超えており、Xが上記行為を許容していたと評価することはできない
したがって、Y市職員が、B園長に対し、Xの承諾を得ることなく、本件日記のコピーを交付して書き込みをさせ、それを保管させた行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

3 Xの上記診療記録によれば、Xは、本件日記が市長だけに見せるとの条件で提供されたものであることを前提とした上で、市長以外の者が閲覧するなどしたことについて、本件日記が「流出している」、「出回っている」ものと捉えて、Y市における本件日記の取扱いについて不満や不安を抱いていることが認められる。しかるに、本件日記の提供の際、上記のような条件が付されていたとの前提自体が認められないことは、既に判示したとおりである。また、Y市職員は、公務災害補償基金に対し、本件日記を、Xの公務災害の認定請求に関する調査資料として提供したことが認められるところ、これはXの主張事実を裏付けるものとしての提供であったと考えられる。Xは、Xの母を通じてY市に対し、本件日記をXの主張事実を裏付けるものとして、Y市におけるパワハラの調査のために提供したものであるが、その利用目的そのものとは異なるものの、趣旨とするところには共通するものがある。さらに、Xは、本件日記のコピーがB園長に交付されていたことを平成30年6月26日に知ったことが認められるが、他方でXは、その前の平成29年12月28日に本件訴訟を提起し、Xの日記を甲第1号証として証拠提出しており、これがB園長の目に触れることも覚悟していたものである。
以上の事情に照らせば、Xのうつ病が長期化している状況があったとしても、その原因がY市職員の上記各違法行為にあるとして、その治療費や休業損害までの賠償を相当因果関係のある損害として認めることは困難である。

ハラスメントの調査方法について留意すべき点です。

仮に目的が正当であったとしても、手段が相当でない場合には、違法と判断されますので注意が必要です。

ハラスメント調査は、必ず顧問弁護士に相談をしながら進めていくことをおすすめいたします。