おはようございます。
今日は、退職金制度廃止の有効性と労働者の同意の有無に関する裁判例を見てみましょう。
東神金商事件(大阪地裁令和2年10月29日・労判1245号41頁)
【事案の概要】
本件は、土木建築資材の販売等を目的とするY社の従業員であったXらがY社に対し、各労働契約に基づき、それぞれX1については退職金のうち253万8000円、X2については退職金のうち112万2300円+遅延損害金の各支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、X1に対し、239万3588円+遅延損害金を支払え。
Y社は、X2に対し、112万2300円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 将来の退職金を失わせるという不利益の大きさに鑑み、その同意の有無については慎重に判断せざるを得ないところ、まず、X1を含むY社の従業員とY社との間で、退職金制度の廃止に同意する旨の書面は取り交わされていない。また、X1を含むY社の従業員は、C会長及びB元社長から退職金制度の廃止の説明を受けた際、特に異議を述べておらず、退職金支払のための積立型保険の解約返戻金も受領しているけれども、従業員としての立場を考えると、そのことから直ちに退職金制度の廃止自体にまで同意していたとまではいえない。そのほか、Y社代表者の上記供述部分を裏付けるに足りる証拠はなく、これを採用することができない。
仮に、X1を含むY社の従業員が形式上Y社の退職金制度の廃止に同意したと見られる行為を行っていたとしても、同廃止は、Y社が自社ビルを約3億円で購入し、その借金が嵩んだことを主たる要因とするものであって、そのような理由で退職金を廃止されることに労働者が同意するとは考え難い。したがって、このような行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえず、X1の同意があったものとすることができない(最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁等参照)。
したがって、X1を含むY社の従業員がY社の退職金制度の廃止を同意していたとは認められない。
2 Y社が平成26年10月頃の時点において、Y社の退職金を廃止しなければならない経営状況であったなどの事情は見当たらない。この点、Y社代表者も、平成26年10月頃の就業規則変更に関する説明の際には、Y社の経営状況等退職金制度の廃止の必要性については述べていない。また、平成26年10月頃の時点では、XらのY社における勤続年数が10年を超え、基本退職金額が既に140万円を超えていたのであるから、退職金の廃止による不利益は大きい。
3 Y社代表者は、X2のほか、平成13年以降に新たに採用する従業員に対しては、退職金がないと説明した旨供述し、X2も、採用時に退職金があるとの説明はなかった旨供述している。しかしながら、X2採用時のY社の就業規則の定めが本件旧就業規則のとおりである以上、X2にその認識がなくとも労働契約の内容となっているといわざるを得ず(労働契約法12条)、X2に対する採用時のこのような説明内容は、上記判断には影響しない。
4 以上によれば、本件新就業規則及び本件新賃金規程の退職金規定部分は,合理的なものとは認められず、XらとY社との間の労働契約の内容とはならない(労働契約法9条、10条)。
賃金や退職金の減額・不支給について労働者の同意の有効性が争点となることは本当に多いです。
そして、その多くが無効と判断されています。
同意さえ取ればよしという考えは通用しないことを理解しましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。