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今日は、事業譲渡先会社に対する退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。
ヴィディヤコーヒー事件(大阪地裁令和3年3月26日・労判1245号13頁)
【事案の概要】
本件は、a株式会社(後に会社分割を行い,補助参加人に商号を変更した。以下,会社分割前の同社を「a社」という。)に採用され、a社が経営する店舗で勤務し、a社がY社に同店舗の事業を譲渡した後も同店舗で引き続き勤務して退職したXが、Y社に対し、①主位的に、Y社はa社からXとの間の雇用契約を従前の労働条件のまま引き継いだと主張し、雇用契約終了に基づく退職金請求として、a社に採用されてY社を退職するまでの期間にかかる退職金461万9167円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Y社はa社からXに対する退職金債務を引受け、又は会社法22条1項に基づき譲受会社として同債務を弁済する責任があると主張し、債務引受又は会社法22条1項に基づき、a社で勤務していた期間にかかる退職金415万9167円+遅延損害金の支払を求め、補助参加人がXに補助参加した事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 a社とd社との間で、本件事業譲渡契約の条件交渉の際、本件店舗等の従業員の処遇について、勤務地、給与、交通費、店舗における立場を変えずにY社が引き継ぐものの、d社において退職金の定めはないことが明らかにされていたこと、Cから本件店舗等の各店長に対しても、経営者が変わっても雇用条件や地位に変更はないが退職金はなくなること、ただしa社の下での退職金はa社において支払うことが説明されたこと、その上で、Xを含む本件店舗等の店長は、d社が設立したY社との間で新たに雇用契約書及び労働条件通知書を取り交わし、本件店舗等のアルバイトは、改めてY社に履歴書を提出し、Y社との間で労働条件通知書を取り交わしていることが認められ、これらの事実によれば、本件事業譲渡契約において、d社は、本件店舗等の従業員が望めば、勤務地、給与、地位等の条件を変えることなくY社において雇用を維持することを約したにすぎず、Y社においては退職金の定めがないこともあって、Y社による雇用を望む従業員とは新たに雇用契約を締結し直すことが予定されていたものであり、Xについても、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の内容で、Y社と新たな雇用契約を締結したというべきである。
2 Y社は、本件事業譲渡契約後も平成28年8月15日まで、引き続きa社名義で本件店舗等の経営を行い、本件店舗の店名は平成29年3月までb店のままであったことが認められるものの、a社はCを通じて、Xに対し、a社の下で発生した退職金債務はa社において支払う旨を伝え、Y社は、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書を通じて、Xに対し、退職金債務を弁済する責任を負わない旨を通知したということができる。
したがって、Y社に会社法22条1項は適用されないというべきであり、a社のXに対する退職金債務についてY社に会社法22条1項の責任があるとの原告の主張は採用できない。
上記判例のポイント1は、まあそうでしょうね、という内容です。
なお、会社法22条1項には「事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定されていますが、本件では、適用は否定されています。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。