おはようございます。
さて、今日は、工場の操業休止に伴う希望退職募集、整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
東亜外業(本訴)事件(神戸地裁平成25年2月27日・労判1072号20頁)
【事案の概要】
Y社は、大口径溶接鋼管の製造及び据付並びに各種管工事等を業とする会社である。
Xらは、Y社東播工場に勤務する従業員である。
Xらは、平成23年6月、整理解雇された。
【裁判所の判断】
整理解雇は無効
【判例のポイント】
1 一般に、整理解雇の有効性を判断するに当たっては、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行(人員削減の方法として整理解雇を選択することの必要性)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が挙げられるが、これらは厳密な意味での要件ではなく、評価根拠事実と評価障害事実として、当該整理解雇が解雇権濫用となるかどうかを総合的に判断する上での要素と考えるのが相当というべきである(したがって、どれか一つの要素が認められないとしても、そのことのみで直ちに当該整理解雇が権利濫用となるとはいえず、他の要素に係る事情も加味して総合的に判断すべきことになる。)。
そして、当該労働者に解雇を正当化するだけの十分な理由(落ち度)がないにもかかわらず、これを解雇することが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)に該当しないというためには、上記①ないし③の要素について使用者側に主張・立証責任があり、④の手続の妥当性を含め、その他の当該解雇が信義則に反するとの事情を労働者側に主張・立証させるのが相当である。
2 Y社が、①社外工につき、平成20年9月から12月末までに30人、・・・合計208人を削減したこと、②分会の同意を得て、雇用安定助成金制度を活用し、平成21年に12日、・・・休業を実施したこと、③平成23年度の新入社員採用取止めを実施したこと、④納期の切迫した仕事がある場合以外の残業の禁止を実施したこと、⑤1次募集及び2次募集に分けて本件希望退職を実施したこと、⑥希望退職者に対して再就職のあっせんを行ったこと、⑦社内他部門に対して受入れ打診を行ったが、要員充足のため、受け入れることが困難であるとの反応であったこと、の各事実が認められる。
・・・Y社は、一定の解雇回避努力をしたことが認められる。
しかしながら、Y社は、①千葉市中央区内の事業所での工事施工管理者や②神戸第一事業所での電気工事職などにつき、求人活動を行っていると認められるが、Y社にとって、これらの勤務場所についてXらに提示することは必ずしも困難ではなかったと考えられるところ、Y社がこれらについてXらに提示した形跡は認められない。
・・・さらに、Xらは、今回解雇された従業員のほとんどは溶接の技術を有しており、溶接の仕事が主であるY社事業所部門でも十分就業は可能であるにもかかわらず、Y社は他部署への配転を全く検討していないと主張しているところ、Y社がこれを十分に検討したことを裏付ける的確な証拠は見当たらず、加えて、他の部署で採用したとする7人の新規採用の対象職務や勤務場所についても、Xらのいずれもが対象外であったとの適切な証明もされていない。
整理解雇が、当該労働者には帰責事由がないのに、使用者側の一方的都合により実施されるものであることにかんがみると、解雇回避努力は、可能な限り試みられるべきであるが、前号認定の事実及び事情からすると、Y社がその回避努力を真摯に尽くしたとは言い難いというべきである。
3 当該企業の経営状況に照らし、整理解雇がやむを得ないと認められる場合であっても、使用者は被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を認定し、これを公正に適用して行うことを要すると回するのが相当である。
・・・Y社があらかじめ客観的基準(年齢、勤務年数、役職、担当職務、資格、特別な貢献度、扶養親族の有無など)を策定し、Xらを含む従業員にこれを提示して十分な協議が行われた事実は認められない。
4 以上の検討の結果を総合すれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというべきである(労働契約法16条)。したがって、本件解雇は、解雇権を濫用したものとして無効と判断するのが相当である。
本件の仮処分事件については、こちら。
3要素説ですね。
解雇回避努力についても、「可能な限り試みられるべき」としており、かなり厳格です。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。