おはようございます。
さて、今日は、解雇無効判決確定後に注意すべき事項について参考になる裁判例を見てみましょう。
宮崎信金事件(宮崎地裁平成21年9月28日・判タ1320号96頁)
【事案の概要】
Xは、Y会社と雇用契約を締結し、Y社において勤務していた。
Y社は、宮崎新聞社代表取締役からY社の内部資料が外部に流出していることを告げられたのを契機に、流出文書調査委員会を発足させてXらの調査を行った。
Y社は委員会から調査結果および意見を受け、本件文書の外部流出についてはXらの関与が明らかであるとして、Xを懲戒解雇した。
本件懲戒解雇に伴い、社会保険事務所に対してXが社会保険資格を喪失したことを届け出るとともに、厚生年金基金に対してもXが加入員資格を喪失したことを届け出た。
これに対し、Xが懲戒解雇の無効確認等を求めて提訴し、最高裁において解雇無効で確定した。
Xは、Y社に復職した。Y社は、Xの復職に伴い、社会保険事務所から社会保険の加入方法について復職時から2年分のみ遡って加入する方法と復職時から再加入する方法がある旨の説明を受け、Xに対し、同様の説明を行った。
しかし、その後、Y社は社会保険事務所から以前の説明には誤りがったとして、社会保険の加入方法については以前説明した2つの方法のほか、解雇時に遡って加入する方法があり、従業員に対する解雇の無効が確定した場合には、解雇時に遡って加入するのが原則となる旨の説明を受けた。ところが、Y社はこの説明をXにしなかった。
Xは、復職時から厚生年金に加入する旨をY社に伝え、Y社もその手続をとった。このためY社は懲戒解雇時から復職時までに対応する社会保険の使用者負担分の負担を免れている。
Xは、Y社がXの年金資格を遡及回復させなかったこと等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した。
【裁判所の判断】
Xらは解雇時に遡って厚生年金の被保険者資格、厚生年金基金の加入員資格を回復していた場合の年金の受給見込額と、復職時に被保険者資格、加入員資格を再取得していた場合の受給見込額の差額から、Xが負担すべきであった保険料を控除した額等の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 厚生年金保険法は、同法所定の強制適用事業所及び厚生年金基金の設立事業所の労働者は厚生年金保険及び厚生年基金に加入するものとし(同法9条、122条)、また、被保険者資格等は、使用者との間の使用関係が消滅するなどの事情がない限り存続するものとした上で、使用者が虚偽の資格喪失届出をすること等に罰則を設けている(同法13条、14条、102条、123条、124条、187条)。そして、社会保険事務所においても、解雇の無効が確定した場合には、厚生年金保険について、原則として、被保険者の資格喪失の処理を取り消し、解雇時から継続して加入していたものとする扱いがとられている。このような被保険者資格等に関する規定及び運用に照らすと、労働者は、使用者との雇用関係が消滅するなどの特段の事情のない限り、被保険者資格が存続するものと考え、また、加入期間に対応する年金を受給し得ると期待するのが通常である。
2 以上のような厚生年金保険法の規定及び労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の老後の生活保障に重要な役割を担うことを併せ考慮すると、労働者に対する解雇の無効が確定した場合には、使用者は、労働者の年金資格の回復方法について労働者の選択に委ねる余地があるとしても、使用者は、雇用契約に付随する義務として、当該労働者に対し、労働者が資格の回復方法について合理的に選択できるよう、被保険者資格等の回復に必要な費用及び回復により得られる年金額等、各加入方法の利害得失について具体的に説明する義務を負うものと解するのが相当である。
3 Y社は、Xに対し、被保険者資格については解雇時に遡って加入する方法をのぞく2つの方法及び2年分遡及加入した場合に必要となる費用のみを説明し、加入者資格については復職時からの再加入する方法のみを説明するにとどまっているのであるから、Y社には、上記説明を怠った過失があるといわざるを得ない。
本件では、年金資格を遡及回復させなかったことの債務不履行ないし不法行為該当性が問題となりました。
裁判所は、解雇後の被保険者資格の回復について、使用者の「説明義務違反」を理由とする損害賠償請求が認容されました。
選択肢の説明義務があり、本件では、最も原則的な選択肢について説明がなされていなかったため、問題となりました。
会社としては、解雇無効確定後、従業員に対する説明内容については、顧問弁護士に確認した上で、ミスがないようにしたいところです。