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今日は、勤務日数・シフトの大幅な削減がシフト決定権限の濫用に当たり違法とされた事案を見てみましょう。
有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日・労経速2443号3頁)
【事案の概要】
本件本訴は、Xと労働契約を締結し、Xを雇用していたY社が、Xに対し、本件労働契約において、Y社のXに対する別紙1債務目録記載の各債務の不存在確認を求める事案である。
本件反訴は、Xが、Y社に対し、①主位的に、本件労働契約において勤務時間を週3日、1日8時間、週24時間、勤務地、職種を介護事業所及び介護職と合意したにもかかわらず、Y社の責めに帰すべき事由により当該合意に基づき就労することができなかったと主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成28年5月1日から平成31年3月31日までの未払賃金230万8425円+遅延損害金、b)平成31年4月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、月額賃金10万4290円+遅延損害金、②予備的に、平成29年8月以降のシフトの大幅な削減は違法かつ無効であると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成29年9月支払分から令和2年3月支払分までの未払賃金207万9751円+遅延損害金、b)令和2年4月支払分から同年7月支払分までの未払賃金27万5668円+遅延損害金、c)同年8月支払分以降の賃金として、同年8月から本判決確定の日まで、毎月末日限り6万8917円+遅延損害金の支払を求めるとともに、③給与振込手数料の控除には理由がない旨主張して、本件労働契約に基づく賃金請求又は不当利得に基づく返還請求として、控除された給与振込手数料4746円+遅延損害金、④通勤手当の未払いがあると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、未払通勤手当15万1880円+遅延損害金の各支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 Y社の本件各本訴請求をいずれも却下する。
2 Y社は、Xに対し、13万0234円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、5149円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき,賃金を請求し得ると解される。
そこで検討すると、Xの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。
2 この点、Y社は、Xが団体交渉の当初から、児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから、Xのシフトを組むことができなくなったものであり、Xが就労できなかったことはY社の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
しかしながら、第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ、Xが児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で、一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年3月19日であり、平成29年9月29日時点でXが一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、Y社はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。
一方、Xは、同年10月30日の第2回団体交渉において、児童デイサービスでの半日勤務には応じない旨表明しているところ、このようなXの表明により、原則として半日勤務である放課後児童デイサービス事業所でのシフトに組み入れることが困難になるといえる。そして、Xの勤務地及び職種を介護事業所及び介護職に限定する合意があるとは認められないところ、Xの介護事業所における勤務状況から、Y社がXについて介護事業所ではなく児童デイサービス事業所での勤務シフトに入れる必要があると判断することが直ちに不合理とまではいえないことからすれば、同年11月以降のシフトから外すことについて、シフトの決定権限の濫用があるとはいえない。
そうすると、Xの同年9月及び10月の賃金については、前記シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月(同年5月分~7月分)の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であり、その平均額は、以下のとおり、6万8917円である。
この裁判例は非常に重要ですのでしっかり押さえておきましょう。
労働条件の不利益変更の一類型として捉えることができるため、考え方はそれほど難しくありません。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。