おはようございます。
さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
マツダ防府工場事件(山口地裁平成25年3月13日・労判1070号6頁)
【事案の概要】
本件は、派遣労働者として自動車製造業を営むY社の防府工場の各職場に派遣されて自動車製造業務に従事していたXらが、労働者派遣法が定める派遣可能期間を超えてY社が労働者派遣の役務の提供を受けていたことやXらの就業実態等の事情によれば、Xらが派遣元事業主との間で締結した派遣労働契約は無効というべきであり、かつ、Xらの就業実態等によれば、XらとY社との間には黙示の労働契約が成立しているなどと主張して、Y社に対し、XらがY社正社員としての労働契約上の地位を有することの確認、賃金の支払い、不法行為(Y社の違法行為に基づくXらの雇用継続に対する期待権侵害)に基づく損害賠償を請求する事案である。
【裁判所の判断】
Xら(15名中13名)とY社との間で期間の定めのない労働契約が黙示的に成立した。
【判例のポイント】
1 Y社は、サポート社員制度の運用実態において労働者派遣法の規定に違反したというにとどまらず、ランク制度やパフォーマンス評価制度の導入と併せ、常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策を実施していたものと認められ、この状態においては、すでにこれら制度全体としても労働者派遣法に違反するものとさえ評価することができる。また、派遣元においても、コンサルティング業務の委託料やパフォーマンス評価制度による派遣料金の増額分という金銭的対価を得てそれに全面的に協力していたことが認められる。このような法違反の実態にかんがみれば、形式的には労働者派遣の体裁を整えているが、実質はもはや労働者派遣と評価することはできないものと考える。
2 改正前の労働者派遣法の立法趣旨が専ら恒常的労働の代替防止にあったとしても、同法が派遣労働者の保護にも配慮する労働法としての側面を併有していたことは否定できないというべきであり、そうすると、同じく労働者派遣法違反であっても、偽装請負のようにそれ自体からは直接雇用の契機が出現しない場合とは異なり、いったんは直接雇用というサポート社員を経験した派遣労働者については、その前後の業務内容、勤務実態、使用従属関係の有無等を併せ考慮することにより、派遣労働期間中についても直接雇用を認め得る契機は高いものと考えられる。その上、本件派遣について労働者派遣法の適用を否定しても一般取引に及ぼす影響はなく、Y社及び派遣元がサポート社員制度の運用並びに同制度にランク制度やパフォーマンス評価制度を組み合わせることにより制度全体として労働者派遣法に違反し、協同して違法派遣を行っていたとみられることからすれば、Y社及び派遣元の取引関係に及ぼす影響はもとより考慮すべきでないこと、労働者派遣法に基づき厚生労働大臣には同法に基づく指導・助言、改善命令、公表等の監督行政権限が与えられているものの、労働者派遣法40条の2には罰則規定の適用がなく、これらの罰則規定の適用や厚生労働大臣による監督行政権限の行使によっては現実にサポート社員を経験した派遣労働者を保護することができないこと、このように、労働者派遣法の枠内では自らの組織的かつ大々的な違法状態の創出に積極的に関与しいたY社の責任を事実上不問に付すことになることなどに照らせば、現実にサポート社員を経験して上記諸制度の適用を受けた派遣労働者については、黙示の労働契約の成立を認めることができる諸事実が存することも加味すると、それら派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約を無効であると解すべき特段の事情があると認められる。
かなり特殊な事案ですので、この裁判例が出されたからといって、他の事件に及ぼす影響はそれほど大きくないと思います。
もっとも、この裁判例から学ぶべきことは多いですね。 是非、参考にしてください。
高裁がどのような判断を下すか楽しみです。
派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。