おはようございます。
さて、今日はパワハラで視覚障害発症、休職期間満了後の自動退職の効力に関する裁判例を見てみましょう。
第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24年12月25日・労判1068号5頁)
【事案の概要】
Xは、Y社の正社員として勤務していたところ、上司等から仕事を与えられず、嫌がらせを受けたり暴言を浴びせられるなどした上、精神的に追い込まれて視覚障害を発症し、休職に追い込まれた結果、休職期間満了により自動退職という扱いになった。
Xは、①同視覚障害は、業務上の傷病に当たり、その療養期間中にXを自動退職とすることは労基法19条1項により無効であるとか、②Xは、休職期間満了時点で復職可能な状況にあったなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認並びに不当に低い評価を受けていた期間中の差額賃金及び上記自動退職後の賃金の支払いを求めるとともに、Y社にはその従業員らによる不法行為を漫然と放置したなどの安全配慮義務、不法行為があると主張して、Y社に対し、損害賠償を請求した事案である。
【裁判所の判断】
本件自動退職は無効
【判例のポイント】
1 ・・・以上のとおり、Xの供述内容には、全般的に疑問な点が多い。XがB課長やC課長らの暴言等を他部署の者、時には社外の者に訴え、その中で詳細にその言動の内容が記載されていることを考慮しても、X供述が客観的な裏付けを欠いていること、供述内容自体に合理性にが欠けていること、他の証拠との整合性がないことなどに照らすと、Xの供述についてはにわかにこれを信用することができないというべきである。
このように、Y社従業員(上司等)から継続的に暴言を浴びせられたり、嫌がらせを受けた旨のXの供述については信用することができず、他に、Xの主張を認めるに足りる的確な証拠は存しないというべきである。したがって、X主張にかかるY社従業員(上司ら)による不法行為の事実については、これを認めることができない。
2 労基法19条1項において、業務上の傷病により療養している者の解雇を制限している趣旨は、労働者が業務上の傷病の場合の療養を安心して行うことができるようにすることにある点からすれば、同項にいう「業務上の傷病」とは、労働災害補償制度における「業務上の傷病」、すなわち同法75条にいう業務上の傷病及び労働者災害補償保険法にいうそれと同義に解するのが相当である(東京高裁平成23年2月23日判決)。
そして、労災保険法にいう業務上の傷病とは、業務と相当因果関係のある疾病であると解されるところ(最高裁昭和51年11月12日判決)、同制度が危険責任の法理を基礎とするものであることからすれば、当該傷病の発症が当該業務に内在する危険の現実化と認められることを要するというべきであるところ、上記危険性については、その性質上、個々の労働者を基準として個別に判断すべきではなく、一般労働者を基準として客観的に判断されるべきものと解される。
3 本件休職期間満了時点(平成22年1月6日時点)において、Xの休職事由が消滅していたか、すなわち、就業規則16条、18条に即していえば、休職の理由となった疾病が治癒し、通常の勤務に従事できるようになったかについて、以下、検討する。
・・・このように、労働者が、職種や業務内容を特定することなく雇用契約を締結している場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのあれば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(最高裁平成10年4月9日判決)。
また、休職事由が消滅したことについての主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、使用者側である企業の規模・業種はともかくとしても、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで、労働者が立証しつくすのは現実問題として困難であるのが多いことからすれば、当該労働者において、配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができることの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであり、これに対し、使用者が、当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当である。
4 これを本件についてみるに、Xは、本件休職命令後、視覚障害者支援センターに通学して・・・主治医であるD医師やI医師は、いずれも視覚障害者補助具の活用により業務遂行が可能である旨の意見を述べているところ、上記各医師の意見を排斥するに足りる証拠をY社は提出していない。
・・・Xは、本件休職期間満了時点にあっても、事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認するのが相当である。
休職期間満了による退職処分と労基法19条との関係が争点となっています。
最近、この争点をめぐる裁判をよく見かけます。
使用者側のみなさんは、上記判例のポイント3を是非、参考にしてください。
裁判所の判断傾向を知っているだけで、とるべき対応策も変わってきますので。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。