労働者性34 取締役は労働者?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元取締役の労働者性ならびに解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

鑑定ソリュート大分ほか事件(大分地裁令和2年3月19日・労判1231号143頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y社の取締役として登記されていたXが、①実質はY社に雇用された労働者であり、Y社から不当に解雇された、②Y社は労働契約に基づきXが健康保険及び厚生年金保険の被保険者の資格を得たことを保険者に届け出るべき義務を負ったにもかかわらず、同義務を怠った、③Y社が本店を移転したことにより、本判決確定後に労働に従事するようになった際に通勤費用が増加する、④Y社の取締役であったAがパワーハラスメントの防止措置を講じなかったことにつき、Y社が労働契約上の職場環境配慮義務に違反したと主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を、民法536条2項に基づく賃金請求として、解雇の日である平成30年1月17日から平成31年2月20日までの未払賃金合計257万4491円+遅延損害金等を求める事案である。

第2事件は、Xが、Y社の取締役であったAにおいてXに対してパワーハラスメントをしてY社に職場環境配慮義務違反をさせて任務を懈怠し、Y社の取締役であったBにおいて同パワーハラスメントの防止措置を講じずY社に職場環境配慮義務違反をさせて任務を懈怠したと主張し、A及びBに対し、会社法429条1項に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用相当の損害合計220万円+遅延損害金の連帯支払い(Y社と連帯)を求める事案である。

【裁判所の判断】

労働者性肯定

解雇無効 他
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【判例のポイント】

1 XについてY社の取締役就任登記がされており、Xは取締役就任の承諾書に署名押印しているが、同登記がされてから取締役解任登記がされるまでの約1年8箇月の間、XがY社の取締役としての権限を行使したことはなく、Y社の経営に関わることはなかったのであり、このことからすれば、本件契約締結に際し、Xには、Y社の取締役という立場に見合った権限はそもそも付与されておらず、取締役として活動することも予定されていなかったものと認められる
他方、Xは、Y社の取締役であったBから、大分事務所で業務を行うに当たってXが遵守すべき事項として午前9時から午後5時までを業務時間とする旨が規定された本件社内規程を交付され、実際に、兼業を除いては、基本的にその業務時間どおりに業務を行っていて、業務を行うに当たっては、その内容や納期等についてBから指示を受けるとともに、業務の進捗状況もBにより把握・管理され、業務に後れがあったときは、その遅れを取り戻すよう命じられるなどしており、また、Bにおいて、Xのスケジュールの把握が可能であった。これらのことからすれば、Xは、兼業を除いては、Bの指揮監督の下で、時間的場所的拘束を受けつつ業務に従事していたものと認められる。

2 兼業を認められていることから直ちに労働者性が否定されるものではないし、Xが依頼される業務について諾否の自由を有していたか、仮に諾否の自由を有していたとして、それがどの程度に自由であったかは証拠上明らかではなく、Xは、行うこととなった業務の遂行について、Aからの指揮命令を受けていたものであるから、Xが本件契約において裁量を有していたとしても、それが労働者性を否定するほどの広い裁量であったとは認められない

取締役にすることにより、労基法等の適用を除外するというやり方は、昔からありますが、取締役としての実態が伴っていない場合には、労働者性が肯定されますので注意が必要です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。