労働時間69 バス運転手の待機時間は労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、バス運転手の待機時間のうち1割は労働時間に当たるとした原判決を取り消し、請求がいずれも棄却された裁判例を見てみましょう。

北九州市事件(福岡高裁令和2年9月17日・労経速2435号3頁)

【事案の概要】

Y市は、交通局(交通局)を設置し、北九州市市営バス(北九州市バス)事業を経営しているところ交通局は、バスが一つの系統の路線の終点に到着した後、次の系統の路線の始点から出発するまでの時間の一部に対して1時間当たり140円の「待機加算」を支給していた。
本件は、交通局に雇用され、北九州市バスの定期路線バス(乗合バス)運転手として稼働していたXらが、上記待機加算が支給される時間(以下「本件待機時間」という。)は労基法32条の労働時間(労基法上の労働時間)であり、同時間に係るXらの賃金及び時間外割増賃金と支払済みの待機加算との差額が未払であると主張して、Y市に対し、未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条本文に基づき、上記未払賃金と同額の付加金+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件各控訴をいずれも棄却する。

原判決主文第1項中控訴人兼附帯被控訴人らに関する部分を取り消す。

上記の部分につき,控訴人兼附帯被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xら18名は,被控訴人が労基法上の休憩時間と待機加算の支給される本件待機時間とを明確に区別して取り扱ってきたことなどから、交通局の乗務員は、待機時間が労基法上の労働時間ではなく休憩時間として取り扱われていたことを認識しておらず、大半の乗務員は待機時間に労働から解放されているとの認識を有していなかったと主張する。
しかしながら、待機加算は、もともと交通局が、当時交通局で唯一の労働組合であったd労働組合との間で協定書(平成9年協定書)を作成し、労基法上の労働時間として扱っていた調整時間のうち転回時間を除く時間を労基法上の労働時間ではないことを前提として中休手当相当額を支給することとされたことから支給されるようになったものであり、その金額が1時間当たり140円と低額であることに照らすならば、その支払は本件待機時間が休憩時間であることを前提としてされていたものであるというべきである。

2 そして、Y市は、平成24年2月20日付けの本件通知により、待機時間を労基法上の労働時間ではなく休憩時間であると取り扱うことを乗務員に周知していたものであり、交通局の労働組合も、平成22年、a駅及びe郵便局の各転回場所における待機時間について、乗客が乗車している場合には実働時間とするよう要求し、平成25年4月及び平成26年4月にも、待機時間中の乗車等の勤務の申告を徹底させ、実働時間にすることを求めていたことに照らすならば、本件においてXら18名が支払を求めている未払賃金の期間において、交通局の乗務員は、Y市が待機時間を労基法上の労働時間ではなく休憩時間であると取り扱っており、待機時間には労働から解放されているとの認識を有していたものと認めるのが相当である。

3 Xら18名は、乗務員が、待機時間中、5分以上にわたってバスを離れることはなく、仮に離れていたとしても、それはトイレに行ったためであると主張する。
しかしながら、ドライブレコーダーの記録によれば、複数の乗務員が、休憩施設の有無にかかわらず、転回場所において5分以上バスから離れることがあったことを認めることができ、その全てがトイレに行く目的であったということはできないから、バスから離れることが許容されていたというべきである。ドライブレコーダーの記録の撮影範囲が限られていることなどXら18名の主張する事情は、いずれも同記録の信用性を失わせるものではなく、原審証人Bの証言及び前件訴訟におけるCの証言は、いずれも転回場所から5分以上バスから離れることがあることを否定するものではない。

休憩時間なのか手待時間なのかの議論は、今もなおさまざまな業種における残業代請求事件で論点となります。

日頃から労務管理に力を入れている会社はともかく、多く会社ではなあなあになってしまっているため、手待時間と判断されるリスクが高いといえます。

顧問弁護士に相談し、早急に対応することをおすすめします。