メンタルヘルス6 私傷病による休職期間満了での退職扱い(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務外の傷病(統合失調症)による休職期間満了での退職扱いが有効とされた裁判例を見てみましょう。

日本漁船保険組合事件(東京地裁令和2年8月27日・労経速2434号20頁)

【事案の概要】

本件は、業務外の傷病により休職していた労働者であるXが、使用者であるY社に対し、①主位的に、平成30年7月24日当時、Xは就労可能な状態にあったにもかかわらず、Y社が同日にXの復職申出を認めず、復職を不許可とし、これを前提として令和元年9月19日付けで休職期間満了を理由にXを退職扱いとしたことは違法無効であると主張し、②予備的に、Xが同年7月に復職を再度申し出た時点で就労可能な状態にあったにもかかわらず、Y社がXの提出した診断書を不受理とし、同年9月19日付けで休職期間満了を理由に退職扱いとしたことは違法無効であると主張して、XがY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記①の復職を不許可とした後の賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・このような就業規則の定めによると,Y社において、休職命令は、休職期間満了までの間、解雇を猶予するものであるということができる。そうすると、「休職事由が消滅したとき」とは、職員が雇用契約で定められた債務の本旨に従った履行の提供ができる状態に復することであり、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解するのが相当である。そして、休職事由の消滅については、解雇を猶予されていた職員において主張立証しなければならないと解するのが相当である。

2 本件において「休職事由が消滅したとき」とは、Xが平成25年7月から平成27年末までと同様の勤務を行うことができる状態に復すること、すなわち、Xが、本件事務作業を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく本件事務作業を通常の程度に行える健康状態になった場合であると解するのが相当である。

3 本件診断書1及び指定医意見書は、いずれも、これらをもって、Xについて休職事由が消滅したことを認定するには足りない。そして、平成30年6月6日の面談時におけるXの様子、本件復職不許可の前後におけるXによるツイッターへの投稿内容、指定医の診察やA会長との面談に遅刻した際の状況等を併せ考慮すると、本件復職不許可の時点において、Xが本件事務作業を通常の程度に行える健康状態、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく本件事務作業を通常の程度に行える健康状態に回復していたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4 本件就業規則12条3項には、職員が復職を求める際に提出する主治医の治癒証明(診断書)について、Y社が主治医に対する面談の上での事情聴取を求めた場合には、職員は、医師宛ての医療情報開示同意書を提出するほか、その実現に協力しなければならず、職員が正当な理由なくこれを拒絶した場合には、当該診断書を受理しない旨の定めがあるところ、これは、平成30年6月5日付けの就業規則の改正により新設されたものである。
医師の診断書は、Y社においてこれを閲読しただけでその意味内容や診断理由を十分に理解することができるとは限らないことから、Y社が、診断内容を正確に理解して傷病休職中の職員の復職の可否を判断するために、主治医と面談し、主治医から直接に事情聴取をすることは必要であり、これについて職員に協力を求めることは合理的である。そして、職員が正当な理由なく協力を拒絶した場合には、Y社において診断書の内容を正確に理解することが困難となる以上、当該診断書を不受理とすることはやむを得ないというべきである。他方、職員としては、Y社が主治医と面談し、主治医から直接事情聴取を行うことによって、自己の傷病の回復状況を正確に理解してもらうことができ、また、医師宛ての医療情報開示同意書を提出するなど、Y社と主治医との面談の実現に協力することは容易なことであるから、上記定めの新設によって何ら不利益を被るものではない。以上によれば、上記定めの新設は、合理的なものであり、就業規則の改正前から休職していた原告にも適用される

上記判例のポイント4は押さえておきましょう。

また、上記判例のポイント3で示されているように、いかなる事情から復職の可否を判断するのが相当かを把握しておくことはとても重要です。

いずれにせよ判断が難しいところですので、顧問弁護士に相談することをおすすめします。