管理監督者性45 タイムカードの打刻がない日の時間外労働時間はどう判断する?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者該当性と未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

マツモト事件(東京地裁令和2年6月3日・労判ジャーナル104号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXが、①平成28年9月21日から退職日である平成30年10月18日までの間の労基法37条1項、4項所定の法定外時間外・深夜・休日労働の割増賃金に不払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、別紙1のとおり、本件請求期間の未払残業代463万7110円+確定遅延損害金24万0539円及び上記未払残業代のうち449万5360円+遅延損害金の支払を求め、併せ、②労基法114条に基づき、付加金400万1144円+遅延損害金の支払を求めた(同2)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、297万4765円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金243万0603円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社においては、少なくとも本件請求期間当時、従業員にタイムカードを打刻させる方法により労務管理がされていたものであるところ、Y社の主張を踏まえても、タイムカードの打刻の信用性を疑わせる事情として的確なものは本件証拠上見出し難いから、Xのタイムカードに出勤及び退出の打刻があると認められる稼働日については、所定の休憩時間とされている1時間を挟んで、同時間帯、稼働があったものと推認するのが相当である。
他方、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日も数多く認められるところ、Xは、かかる稼働日についても別紙1労働時間集計表のとおりの労働時間を認めるべきである旨主張する。
しかし、被告は、上記Xの主張事実を否認しているところ、Xの主張事実を裏付ける的確な証拠はない。かえって、証拠からすると、深夜時間帯を過ぎた日中午前に稼働を開始した稼働日もまま認められるし、他方、午前11時台の時刻などX主張の退勤時刻(午後2時)より相当早い時刻に退勤している稼働日が相当数あることも認められる。この点、X本人は、X本人尋問において、闘病のため入院していた内妻に面会するため業務時間中に病院に行ったことはあるものの、その数は10回ほどにとどまるなどとも供述しているけれども、そもそもこれが10回にとどまる証拠は何らないし、タイムカードからうかがわれるところの稼働状況も以上のとおりであって、他に的確な裏付けのない以上、やはり前記Xの主張はたやすく採用し難いものといわなければならない。
以上のとおりであるから、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日については、X主張のような法定外労働時間があると認めることはできない

2 Y社は、Y社の株式譲渡前にあっては従業員6名程度、その後においてもXと訴外Dのほか事務方の従業員1名程度の極めて小規模な事業体であったものであり、そもそも、経営者の身代わり的存在を置いて、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとはおよそ認め難い。
また、以上の点を措くとしても、Xの所定労働時間は一応1日8時間と定められてはいたところであって、およそ所定労働時間の稼働の有無や稼働の程度を随意にできたと認めることのできる証拠はない。かえって、Y社は、本件訴訟において、Xに無断欠勤があったなどと主張している。確かに、証拠によれば、Xのタイムカード上の始業時刻や終業時刻が区々となっている傾向は看取できるが、これも、所定始業・終業時刻が定時に定まっていなかったことの結果とみることもできるから、そのことから直ちにXに上記説示のような意味における出退勤の自由があったということはできない。結局、本件において、出退勤がXの自由に委ねられていたとは認め難い。
さらに、Xに対する待遇も前記前提事実記載の程度であって、基本給のほかは、役職給その他の支給項目による支給はなく、Xの基本給に労働時間規制を超えて労働をすることの対価が含意されていたと認めるに足りる証拠もない。平成30年3月支払分からの賃金増額分も、Y社主張のように、業績好転への寄与への期待から増額されたものとはいえても、管理監督者としての稼働に対する対価として増額されたと認めるべき的確な証拠はない。結局、Xに対し、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめることの対価としての十分な待遇がなされていたともたやすく認め難い
以上の次第であって、本件において、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとは認め難い一方、Xに出退勤の自由や十分な待遇がなされていると認め難く、労働時間規制の枠組みを超えた稼働をさせたとしても労働者保護にかける嫌いがないとも評価し難いから、労基法41条2号が管理監督者について特に労働時間規制の例外を設けた趣旨にも鑑みると、そもそもXが管理監督者に該当すると認めることは困難である。

管理監督者性についてはいつものとおり、否定されております。

上記判例のポイント1は非常に参考になります。

タイムカードの打刻がない日について、他の日の労働時間から推認させないために、いかなる主張立証をするかによって勝敗を決します。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。