解雇339 提訴時の記者会見は解雇事由となる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育児休業取得妨害等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件(東京地裁令和2年4月3日・労判ジャーナル103号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた原告が、①Y社から育児休業取得の妨害、育児休業取得を理由とする不利益取扱いをされたとして、不法行為による損害賠償請求権(不利益取扱いについては一部債務不履行による損害賠償請求権も根拠とする。)に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めるとともに(損害賠償請求)、②Y社がXに対してした平成29年10月18日休職命令は無効であるとして、民法536条2項に基づき、平成29年10月分の未払賃金,同年11月分の未払賃金円+遅延損害金(休職期間賃金請求)、③Y社がXに対してした平成30年4月8日解雇は無効であるとして、民法536条2項に基づき、同年12月分から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金(解雇後賃金請求)の支払を求め、④雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(地位確認請求)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し警告をしたにもかかわらず、本件訴訟において、Y社の内部文書である本件収益一覧表を顧客名等について黒塗りすることなく証拠として提出し、第三者による閲覧及び謄写が可能な状態に置いたことは「Y社及び取引先の経営情報、営業上の秘密、その他公表していない情報を他に漏らした場合」(戦略職就業規程70条3号)に当たる旨主張する。
しかしながら、Xが訴訟代理人弁護士を通じて本件収益一覧表を提出した先は裁判所であり、Y社は閲覧制限を申し立てる方法により閲覧の対象者は当事者に制限することができ、また実際にも申立てがされていて、第三者が閲覧及び謄写した事実はない(記録上明らかな事実)。そうすると、Xの行為は軽率のそしりは免れないとしても、本件収益一覧表を他に漏らした場合に当たるとまでは評価することができない。上記Y社の主張は失当であり採用することができない。

2 Xは、本件のような労使紛争において社内的な解決を図ることができない場合に、裁判所を通じた法的措置をとり、その際に世論の喚起及び支援を求めて記者会見をし、取材を通して自らが訴訟において主張する事実関係を述べることは一般的に行われており、このような行為は表現の自由として憲法上保障されているからXの前記各発言を原告の不利益に考慮することは許されない旨主張する。
Xが記者会見をして自らが訴訟において主張する事実関係を述べること自体は表現の自由によって保障されるものであることはもとよりであるが、表現の自由も他人の名誉権や信用など法律上保護すべき権利・利益との間で調整的な文脈での内在的制約に服さざるをえないというべきであって、記者会見における表現行為であるとの一事をもって、その内容がどのようなものであっても対第三者との間において許容されるべきことにはならないというべきである。かような観点からすれば、訴訟追行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ、Y社の名誉や信用等を侵害する場合、これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできない。

3 Xは、育児休業から復帰した直後からハラスメントを受けたとし、B、D及びEが繰り返しXに対しXの誤解であることを説明したものの、かえってXは広く世間に対し同内容の主張を情報発信することを繰り返した。このようなXの言動は本件解雇に至るまで続いており、Xに改善の兆しは見られない。また、Xは、自らの担当顧客について「利益を生まないし、これからもそうはならないであろう」顧客などと指弾し、担当顧客の評価を不当に貶めるような発言をした。加えて、Y社では、Xの別紙の情報発信を理由として顧客取引の停止等の影響が実害として発生していることが認められる。そして、X自身も、平成29年11月2日記者会見において、Xによるハラスメントを訴えたことを理由に既にY社との取引を止めたという噂も耳にしている、この動きは広がる一方である旨述べていて、別紙の情報発信によりY社に与える打撃及び影響を十分に認識し認容しながら、Y社からの警告を受けてもなお、あえて情報発信を継続したと理解することができる。Xは、日本株及び日本株関連商品の営業業務の担当として高い職務実績をあげY社の当該業務の成果に大きく貢献することが期待され高額の給与が保証されている戦略職であり、別紙の一連の情報発信及び情報の拡散行為は、戦略職として求められている期待に著しく反するものであって、本件雇用契約上の信頼関係は修復不可能な状態になっているということができる。

上記判例のポイント2は注意が必要ですね。

提訴時の記者会見について裁判所の考え方が示されていますので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。