労働時間66 就業時間前後の労働時間該当性と黙示の指揮命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業時間前後の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

淀川勤労者厚生協会事件(大阪地裁令和2年5月29日・労判ジャーナル102号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、①雇用契約に基づき、別紙1「集計表(原告請求分)」記載のとおりの未払時間外割増賃金等170万5546円(元本141万9006円及び確定遅延損害金28万6540円の合計額)+遅延損害金の支払、②労基法114条所定の付加金88万0960円+遅延損害金の支払、③Y社がX申請に係る年次有給休暇及び生理休暇の取得妨害等をしており、これが不法行為を構成するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)10万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、130万2422円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、所定始業時刻よりも早い、本件出退勤システム上の記録時刻に依拠して、その始業時刻に関する主張を構成しており、先輩看護師から所定始業時刻前に出勤して患者情報を収集するよう指示された、看護師の「ほぼ全員」がそのようにしていたなどとこれに沿う供述をする。
そして、B師長がした平成28年3月時点の発言の中に、同年2月にした「日勤」時におけるPNS導入の下、午前8時45分以降に2名で情報収集から始めるよう指示しており、「早くから出勤する職員は減ってきている」というものが含まれているところ、これはPNS導入前、所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等をしていた看護師がX以外にも一定数いたことを示唆するものであり、B師長自身、所定始業時刻前に出勤していた看護師は「3分の1もいなかった」などと供述している。このような証拠関係に照らせば、Xが「ほぼ全員」と表現するまでの多数であったとは認められないにせよ、平成28年1月以前(PNS導入前)の「日勤」時には、一定数の看護師が所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等の業務に従事していたものと認定でき、ひいては、Y社において、このような一定数の看護師がしていた行動について、担当業務の遂行方法の一つとしてこれを容認していたとみられ、この点にY社による黙示の業務命令があったと認定でき、この認定を覆すに足りる証拠はない。
さらに、Xがそのような黙示の業務命令の下で労務提供をしていたか否かについてみるに、Xは、患者情報の収集をしていた旨供述するが、所定始業時刻前に一定数の看護師が出勤して、現に患者情報の収集等をしていたと認められるところ、Xが所定始業時刻前に出勤していた限りにおいて、そのような業務を行う者の一人であったことを否定する事情は見当たらない当時、Xは入職後間もない時期にあり、先輩看護師らが業務をする中で、あえて何の業務にも携わっていなかったというのもかえって不自然である。)。
そうすると、Xは、この期間における「日勤」時について、前記のとおりに認められる黙示の業務命令に基づき、本件病院建物への到着後間もなく、労務提供を開始していたと認定できる

2 Xは、本件出退勤システム上の記録時刻を前提として、平成27年4月10日から平成28年2月23日までについては、着替え等に要するものとして、さらに10分間早い時刻をもって始業時刻とする旨その主張を構成しているところ、Xは、この期間に限り、本件病院建物に到着後、着替え等をしてから本件出退勤システムへの時刻登録をしていたことが認められる。
そして、本件病院では、看護師の制服が採用されるとともに、Y社によってその更衣場所が定められるなどしており、清潔を保持すべき看護師という業務の性質等をも踏まえる限り、本件病院での看護師の制服への着替えは、その業務に不可欠な準備行為として、Y社から黙示的に義務付けられていると評価すべきである。このような本件における具体的事情に照らせば、この着替え等に要する時間についても、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、これを労働時間の一部と捉えることが相当である。
もっとも、着替え等に要する時間について,Xは10分間であるものと主張するが、これを裏付ける客観的証拠はなく、2分間くらいで、長くとも5分間もあれば十分であるといった、Xの供述に相反する趣旨の他の看護師の供述があるところ、2分間というのは短きに過ぎるものであるにせよ、5分間という内容は不自然不合理ということはできず、Xの主張は5分間の限度で認定できるにとどまる。

証人尋問での一言を拾われて、判決理由に使われている例です。

事案としては、黙示の指揮命令を認定しやすい類型だと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。