解雇336 自主退職が解雇にあたる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、原告の退職が実質的には被告による解雇にあたるとの主張を否定し、退職が有効と判断された裁判例を見てみましょう。

ドリームスタイラー事件(東京地裁令和2年3月23日・労経速2423号27頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、平成29年4月1日に飲食店の運営等を目的とする株式会社であるY社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、本件労働契約に基づいてY社の業務に従事していたが、妊娠中の平成30年4月末日をもってY社を退職したことについて、①Y社は、時短勤務を希望していたXに対し、月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝え、退職を決断せざるを得なくさせたのであり、実質的にXを解雇したものということができ、当該解雇は男女雇用機会均等法9条4項により無効かつ違法であるなどと主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や、解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与+遅延損害金の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用相当額の損害金の合計110万円+遅延損害金の支払を求めるほか、②Y社は労基法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、労基法に従った平成29年4月から平成30年3月までの割増賃金合計157万2444円+遅延損害金や、当該割増賃金に係る労基法114条所定の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、55万2672円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金42万8227円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社がXに対して月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝えていたと認めることはできず、したがって、Xにおいて、月220時間勤務を約束することができなかったため、退職を決断せざるを得なくなったという事情があったということはできない
また、Y社は、Xの妊娠が判明した後、Xの体調を気遣い、Xの通院や体調不良による遅刻、早退及び欠勤を全て承認するとともに、c店において午前10時から午後4時又は午後5時まで勤務したいというXの希望には直ちに応じることができなかったものの、Xに対し、従前の勤務より業務量及び勤務時間の両面において相当に負担が軽減される本件提案内容のとおりの勤務を提案していたものであり、これらのY社の対応が労基法65条3項等に反し、違法であるということはできない
さらに、上記のとおりの本件提案内容を提案するに至った経緯や、本件提案内容においても、Xの体調次第では人員が足りている午後3時までは連絡すれば出勤しなくてもよいとの柔軟な対応がされていたことからすると、本件提案内容自体、今後の状況の変化に関わらず一切の変更の余地のない最終的かつ確定的なものではなく、Y社は、平成30年4月3日及び同月4日の時点においても、今後のXの勤務について、Xの体調やY社の人員体制等を踏まえた調整を続けていく意向を有していたことがうかがわれる(Xは、Y社において高い評価を受けており、XとC店長及びD部長との間のLINEメールによるやり取りからも、C店長やD部長から厚い信頼を得ていたことがうかがわれ、Y社において、Xが退職せざるを得ない方向で話が進んでいくことを望んでいたと認めることもできない。)。
なお、C店長は、同月3日、Xに対し、自分の好きな場所で好きな時間帯に働きたいというのであれば、アルバイト従業員の働き方と同じであり、Xの希望次第では契約社員やアルバイトへの雇用形態の変更を検討することも可能である旨を伝えていたものの、上記のY社の対応を踏まえれば、一つの選択肢を示したに過ぎないことは明らかであり、このことをもって、雇用形態の変更を強いたということはできない
これらの事情によれば、Xの退職が実質的にみてY社による解雇に該当すると認めることはできない

労働者の退職が実質的には被告による解雇にあたると主張されることはときどきあります。

しかし、当該退職が使用者の退職強要によるとして損害賠償請求をするのとは異なり、自主退職は実質的に解雇であるとの主張は、想像以上にハードルが高いです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。