賃金194 賃金減額の合意が有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、賃金減額の合意と辞職の意思の有無に関する裁判例を見てみましょう。

岡部保全事件(東京地裁令和2年1月29日・労判ジャーナル99号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社代表者の娘婿であり、Y社で働いていたXが、平成29年10月支払分からXの同意なく賃金を減額され、平成29年12月22日をもって辞職した扱いとされ、平成30年1月以降、賃金を支払われなくなったとして、雇用契約に基づき、地位確認及び平成29年10月分から同年12月分までは減額された月額201万5566円の賃金及び平成30年1月以降月額309万円の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

辞職無効
→地位確認請求認容

【判例のポイント】

1 賃金の減額に対する労働者の同意は、形式的に存在するのみでは足りず、自由な意思に基づいてされたものであることを要するというべきである。本件は、Y社代表者とXとの間に親族関係がある点で、通常の労働者、使用者との関係と全く同様とはいえないが、賃金の減額に対する同意の有無を慎重に判断する必要がある点は異ならないと解すべきである。
Xは、本件減額の告知を受けた翌日の平成29年10月13日、賃金額を説明するCのメールに対し、「了解です」との返信をしたものの、その後、同月25日及び26日には、本件減額を認めていない旨のメールをC宛に送信し、同月30日には、Y社代表者の執務室へ赴いて本件減額について考え直してほしい旨を直接告げ、同年12月には、X代理人に依頼して、賃金の差額を請求する旨を通知した。「了解です」との言葉の意味は、内容を承諾した旨とも内容を理解した旨とも解釈可能であり、Xが、「了解です」とのメールを送信したのは、Y社代表者に話をするには時間を置いた方がよいと考えたためであると説明していることに加え、同メール送信後ほどなく、減額告知後の最初の給与支給日までには、Y社による本件減額に対して明示的な拒否の意思を伝えていることからすると、Xが、Y社に対して、本件減額に同意する意思を表明したということはできない

2 Y社は、Xが、Y社代表者の知らない弁護士に委任して、弁護士からの電話一本もなく、賃金請求の内容証明郵便を送付したことは、義理の親子間にあっては他人行儀を超えて冷酷非礼なひどい行為であり、退職するとの不動の覚悟と断固たる決意がなければできないことであるから、内容証明郵便の送付が辞職の黙示の意思表示である旨を主張するけれども、そもそも、退職する覚悟でなければ使用者に対して内容証明郵便を送付しないものではない上、在職を続けることを前提に、会社に対して賃金等の請求を行うことは、権利の行使として当然に許されるから、採用できない
また、Xが発出したY社とa社との業務委託契約の解約の有効性を争う旨の通知についても、XのY社に対する辞職の意思表示とは認められない。
したがって、Xは、Y社に対し、明示にも黙示にも辞職の意思表示をしていない

上記判例のポイント2の考え方は、労働事件で頻繁に出てきますので、是非、押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。