おはようございます。
今日は、就業規則所定の退職手続不履行を退職手当不支給事由とする定めが無効とされた裁判例を見てみましょう。
芝海事件(東京地裁令和元年10月17日・労経速2411号30頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXらがY社を退職したことに関し、Xらが、Y社に対し、労使慣行により自己都合退職の場合でも定年退職の場合と同額の退職手当が支払われるべきである、そうでないとしても自己都合退職の場合には給与規定によって定年退職の場合の6割相当額の退職手当が支払われるべきである旨主張して、労働契約に基づく退職手当及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、X1:323万8227円、X2:307万9210円、X3:315万8883円、X4:302万5500円、X5:233万2925円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 就業規則54条は退職しようとするときはY社の同意を得なければならない旨定めるところ、この規定にかかわらず辞職の意思表示がY社に到達すれば雇用契約終了の効果が生ずるのであるから(民法627条1項)、就業規則54条の退職手続をしなかったことを退職手当の不支給事由と定めても直接的に退職の自由が制限されるものとはいい難い。
しかしながら、Y社の給与規程上、退職手当の額は、定年退職の場合と自己都合退職の場合とで異なるものの、勤続年数に概ね比例するように定められていることに照らすと、Y社における退職手当は功労報償的な性格を有するのみならず、賃金の後払い的性格を有するものであるということができる。このような退職手当の性格に鑑みると、就業規則54条に定める退職手続によらないということのみを退職手当の不支給事由とすることは、労働条件として合理性を欠くものというほかない(労働契約法7条参照)。
したがって、給与規程12条1号ただし書のうち就業規則54条の退職手続をしなかったことを退職手当の不支給事由とする部分は無効である。
2 これに対し、Y社は、本件不支給規定部分は、就業規則54条の趣旨が従業員の退職に伴って引継ぎや人員補充の必要性が生ずることから、退職する従業員とY社とが相互に協力して円満に退職することを促進することにあることを受けて規定されたものである旨主張するが、そのような趣旨自体に合理性があるとしても、給与規程12条1号ただし書は従業員の退職によって生ずるY社の不利益等の有無や程度にかかわらず形式的に就業規則54条の退職手続によらないことのみを退職手当の不支給事由とする点において、合理性を欠くというべきである。
Y社の狙いは十分理解できますが、実際のところ、なかなか難しいところです。
目的のみならず手段の合理性・相当性についても十分検討する必要があるということです。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。