賃金184 横領行為と退職金不支給(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領行為に基づき不支給とされた未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(大阪地裁令和元年10月29日・労判ジャーナル95号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して勤務していたXが、横領行為を理由に懲戒解雇され、退職手当についても不支給とされたが、Xによる横領行為は全ての功労を抹消するほどの背信行為ではなく、少なくとも300万円の範囲では退職手当を受領する権利があるとして退職手当300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件横領行為は、正にXが当時従事していたY社の中心業務の1つの根幹に関わる最もあってはならない不正かつ犯罪行為であり、出来心の範疇を明らかに超えたY社に対する直接かつ強度の背信行為であって、極めて強い非難に値し、被害額も多額に上り、その後の隠ぺいの態様も悪質性が高く、動機に酌むべき点も見当たらないから、XとY社との間の労働契約における退職手当は賃金の後払い的な性質をも併せ持つこと、被害については隠ぺい工作の一環によるもの及び金銭の支払いによるものにより回復されていること、Xは、旧郵政省時代から通算して約24年8か月余りの間、大過なく職務を務めており、本件横領行為を行ったc郵便局在勤中お歳暮の販売額に関するランキングで5位以上であったこと、Xが、Y社による事情聴取に応じ、最終的には非を認めて始末書や手記を提出し、本件横領行為の態様、隠ぺい工作、動機等についても明らかにしていることを十分に考慮しても、Xによる本件横領行為は、Xの従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為といわざるを得ないから、Xは、退職手当規程の本件退職手当不支給条項の適用を受け、Y社に対し、退職手当の支給を求めることができない。

完全に比較衡量の問題ですので、結論としてどちらに流れるかは、担当する裁判官によって異なり得るところです。

もっとも、過去の裁判例を参考におおよその検討はつきますので、それらを参考にしながら退職金の支払いの是非、程度を判断しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。