おはようございます。
さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。
日本セキュリティシステム事件(長野地裁佐久支部平成11年7月14日・労判770号98頁)
【判例のポイント】
1 Y社の賃金規定は、時間外手当および深夜手当について、基本給のみを基準とする旨の規定があるが、労基法37条に照らし、基準賃金に基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、常駐手当、食事手当を含めて算定すべきである。
2 時間外手当及び深夜手当は、賃金台帳、タイムカード、現実の勤務を記載した警備勤務表に基づいて、就業規則に基づく賃金規定に定められた複雑な計算方法により算定すべきものであるところ、これらの書類はY社において所持し、XらはY社から交付された各月の給料明細書を所持しているに過ぎないから、Xらにおいて容易に算定することができないことは明らかである。このような場合、消滅時効中断の催告としては、具体的な金額及びその内訳について明示することまで要求するのは酷に過ぎ、
請求者を明示し、債権の種類と支払期を特定して請求すれば時効中断のための催告として十分である。
3 Xらは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、催告の手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも、権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。
その上、Xらには、給与明細書のほかは時間外手当、深夜手当を算出すべき資料がなく、時間外手当、深夜手当の計算に相当程度の準備期間を要することはY社においても十分に了知していたはずである。
このような経過のなかで、Y社が、提訴後2年4か月を経て時効を援用することは信義にもとり権利濫用として許されないものというべきである。
このケースでは、裁判所は、Xらの請求を全面的に認容し、Y社に総額約3000万円の支払いを命じました。
参考になる点は、消滅時効中断の催告に関する点と消滅時効を援用することを権利濫用とした点です。
この裁判では、Xらは、在職当時の平成2年11月支払分から平成5年4月支払分までの間の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を請求しています。
とても参考になる裁判例ですね。
不法行為という主張と時効援用は権利濫用であるという主張は、従業員にとっては大きな武器になります。
会社にとっては、予め防御しておかなければいけない重要なポイントです。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。