労働災害100 安全配慮義務違反による損害賠償請求と過失相殺(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

41日目の栗坊トマト。日に日に大きくなっています!

今日は、安全配慮義務違反による損害賠償請求について過失相殺が否定された裁判例を見てみましょう。

岐阜県厚生農業協同組合連合会事件(岐阜地裁平成31年4月19日・労経速2386号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社の管理運営する病院に勤務していたXが自殺したことについて、Xの両親である原告らが、Xは、Y社の安全配慮義務違反により本件病院において過重な長時間労働を強いられたこと等によってうつ病エピソードを発病し、自殺を図って死亡したと主張して、Y社に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、それぞれ4547万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は原告Aに対し、3591万9000円+遅延損害金を支払え

Y社は原告Bに対し、3591万9000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xが勤務時間内に与えられた業務を終えることができず、慢性的に長時間の時間外労働をしていたことは、上司であるH課長が現認しており、しかも、Xにおける仕事の進め方に問題があることについても同様に認識していたのであるから、Xによる相談がなかったからといって、Y社における軽減措置を困難にしたものということはできない
また、労働者の長時間労働の解消は、第一次的には、業務の全体について把握し、管理している使用者において実現すべきものであるところ、本件において、H課長はXに対し、早く帰るように声を掛ける等したにとどまり、長時間労働を抜本的に解消するために、仕事の進め方についてDと協議をしたり、合理的な事務処理のための教示をしたりするなどした事実はうかがわれず(IやH課長において、納期の迫っているXの業務につき、協力をしたことは認められるものの、一時的なものにすぎず、長時間労働を抜本的に解消するための措置ということはできない。)あまつさえ、Xの長時間労働の時間を把握しようと努めた痕跡さえ認められない
・・・そうすると、Y社において、Xの長時間の時間外労働に対する配慮が著しく掛けている一方、Xが業務量について上司に相談等しなかったことがY社における配慮の妨げになったと認めることのできない本件においては、当事者間の公平の見地から、Xが業務量について上司に相談等しなかったことをXの過失と評価し、Y社の賠償額を減ずるのは相当ではない

2 Y社が主張するように、労働者が、自己の健康状態について最もよく認識し、健康管理を行うことのできる地位にあることは、一般論としては肯首できるものであるが、本件のように、使用者が労働者における慢性的な長時間労働を認識しながら、十分な措置を講じず、労働者の健康状態に対する配慮が何らなされていない場合には、労働者において医療機関を受診していないことをもって、直ちに自己の健康管理を怠った過失を認めるべきではなく、少なくとも、労働者において、医師から具体的な受診の必要性を指摘される等して、医療機関を受診する機会があったにもかかわらず、正当な理由なくこれを受診しなかったといえる場合に限り、過失として評価する余地があると解すべきである。
そして、本件において、Xが、医師から精神疾患に関する具体的な指摘を受けたことはなく、その他、Xにおいて医療機関を受診する機会があったといえる具体的事情が認められないことを踏まえると、Xにおいて、うつ病エピソードの発病前に、自ら精神科の病院を受診しなかったことを過失と評価すべきではない。

3 Y社において、Xが定期的な休暇を取得できるようにするための十分な配慮がなされていたとはいえない本件においては、Xが自ら休暇を取得するなどの健康管理措置をとらず、H課長らに対して積極的に業務の負担に関する相談をしなかったとしても、かかるXの対応をもって、Y社の損害賠償額を減額する理由とすることは相当ではない。

どの会社にも繁忙期があり、納期があり、にもかかわらず、人が足りません。

そろそろ本腰を入れて、働き方を変えていかなければ、このような事件はなくなりません。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。